サヴィニー・レ・ボーヌのドメーヌ・シモン・ビズの4代目当主のパトリック・ビーズ氏の手によるサヴィニー・レ・ボーヌの1級畑オー・ヴェルジュレス(Aux Vergelesses)です。そろそろ飲み頃を迎えたブルゴーニュの当たり年2009年と2010年を飲んでみました。
ドメーヌ・シモン・ビズ(Siomon Bize & Fils)は、1880年にサヴィニー・レ・ボーヌの地に創立された歴史あるドメーヌです。ややマイナーなアペラシオンにあるこのドメーヌを日本で有名にしたのは、4代目当主のパトリック・ビーズ氏による、日本人好みの繊細な果実味溢れるワインとパトリックを支えた日本人妻千砂さんによるものといえるかと思います。
パトリック・ビズ氏が2013年に61歳で突然他界し、5代目当主として、千砂・ビーズ女史とパトリックの妹のマリエル・グリヴォ女史が後を継ぎました。この当時のことは、2015年にNHK Eテレで放映された「ヴィニュロンの妻、日本人マダムと名門ドメーヌ再起の闘い」という番組で放映されました。突然の夫の死に直面し苦悩する千砂さんが、ドメーヌのスタッフや息子に支えられてドメーヌ跡を継ぐ決心をする過程を綴った内容は非常に印象的なものでした。
2015年の夏にブルゴーニュを訪れた際に、訪問はできませんでしたが、ドメーヌを見に行きました。質素ですが、美しいドメーヌの建物です。
シモン・ビーズのワインは、2001年のヴィンテージくらいから飲んでおり、かつては村名ならば3千円台から、1級も5千円台とニュイの有名ドメーヌものに比べ、比較的手頃な価格で手に入れることができたことから、良年の2005年、2009年、2010年、2012年を中心に結構購入しています。殆どパトリック時代のもので、パトリックが亡くなった2013年以降のビンテージは、未だ飲んではいませんが、専門誌の評価を見ると、以前以上に高い評価を受けているようです。最近は、サヴィニー・レ・ボーヌのトップラインのオー・ヴェルジュレスだと7千円を超えるようになりましたが、ニュイの同じくらいの評価のドメーヌのワインに比べると未だ価格上昇は抑えられているほうだと思います。
サヴィニー・レ・ボーヌ・1erCru・オー・ヴェルジュレス 2010年
オー・ヴェルジュレス(Aux Vergelesses)は、ペルナン・ヴェルジュレスに隣接する1級畑です。実際に畑を見たことはありませんが、地図で見る限りは、標高は300m前後と比較的高く、比較的斜度のある畑です。畑の向きは南東~南向き。石灰岩の上を砂質の混じった泥灰土が覆っている土壌のようで、更に北側にあるBois de Noël(クリスマスの森) という森林により北風が遮られるという気象条件にも恵まれた畑で、サヴィニー・レ・ボーヌで最高の畑と言われています。シモン・ビズは、隣接している1級畑レ・タルメット(Les Talmettes)の区画も所有しています。こちらは真南向きの斜面になるようです。2つの畑のブドウから造られるワインは、どちらも高い評価ですが、知名度や価格的には、オー・ヴェルジュレスの方が上のようです。
中程度の濃さのラズベリーレッド、縁にかけて僅かに熟成を示す茶色のグラデーション。ラズベリー、レッドチェリー、ブルーベリーの赤系寄りの果実香。クローブ、リコリス、シナモンの甘苦いスパイス、林床、僅かにキノコ、腐葉土の熟成香。味わいは、繊細な果実の甘みと酸が絶妙のバランスで、だいぶ柔らかくなっているものの、滑らかな質感ながらも未だしっかり感じられるタンニンが後半から余韻のアクセントになっている。
(3.5)
2、3年ほど前に全く同じワイン・同じヴィンテージを飲んでいますが、その時はやや閉じていた印象でした。今回の2010年は、香りは抜栓直後からほぼ開いており、はるかに華やかな印象であるものの、未だタンニンの陰に甘露さが隠れている印象で、熟成を示す腐葉土的な香りも僅かに感じられる程度です。このドメーヌは、ほぼ全房発酵を取り入れているようでが、新樽率を1級でも最大で50%以下に抑えており、抽出も強くない為、村名でも1級でも、常に繊細な果実味が感じられる印象を持っています。ビンテージによる外れが無いのもこのドメーヌの特徴のような気がします。
サヴィニー・レ・ボーヌ・1erCru・オー・ヴェルジュレス 2009年
2010年が未だ少し早いと感じながらも、自宅のセラーの空きを作る為に、2009年の同銘柄のワインを翌週に開けました。
同じタイミングで2本を開けた訳でないので、厳密な比較ではありませんが、色調はほぼ同じグラスの底が微かに見える中程度のラズベリーレッドです。香りもほぼ同様ですが、ブラックベリー、ブラックプラムなどの黒系果実も少し感じられます。抜栓後1時間ほどで飲み始めましたが、2010年に比べると未だやや硬い印象です。酸も僅かに強く感じ、目立つほどではありませんが、タンニンも比較的強く感じ、僅かに果実の熟度が高くボディもやや強く感じられます。
(3.5~3.6)
2009年、2010年ともにブルゴーニュ赤の当たり年ですが、2009年はほぼ完璧な気象条件で、生産量も多かったのに対して、2010年は、開花期の不安定な天候と収穫前の大雨で厳しい気象条件だったものの夏の晴天と生産者の努力に助けられ、生産量の減少を品質でカバーしたヴィンテージとして知られています。
そのような背景もあり、どちらかと言えば、2009年の方が長熟タイプになる傾向があるようです。
チーズは、2種類のブルーチーズ(グラティン・ブルーとブッシュ・デ・ネージュ)とトム・デ・ボ―ジュです。
ブルー・チーズについては、やはり繊細なブルゴーニュとの相性に関しては、やはり少し難しいものがありますが、イタリアのグラティン・ブルーは、少しマイルドなタイプのブルーチーズなので、合わせるとすればこちらかもしれません。トム・デ・ボージュは、穏やかな塩味ながら、ナッツを感じる複雑な風味も感じられ、こちらの相性は良好だと思います。
最近2017年ヴィンテージがリリースされていますが、価格的には、前年よりも少し下がっているように感じます。ここ数年のボーヌ地方は霜の被害に悩まされていましたが、2017年は本来の収穫量に戻っているようです。2012年より一部の畑で取り入れたビオディナミ農法の成果の出ているようで、この最新ヴィンテージについては、また少し購入してみたいと思います。
<了>