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ブルゴーニュワインとチーズをこよなく愛するシニアのブログです。素晴らしいお酒とチーズの出会いを中心に日常を綴ります。

コルトン尽くし~ドメーヌ・コント・スナ―ル

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アロース・コルトン村のドメーヌ・コント・スナ―ルです。2015年に初めてドメーヌを訪問し、2019年に再訪しました。ドメーヌでのグラン・クリュのテースティングとドメーヌからハンドキャリ―し、自宅で飲んだコルトン・グラン・クリュについて書きたいと思います。

ドメーヌ・コント・スナ―ルについて

コント・スナ―ルは、1857年にジュール・セナ―ルにより設立されたドメーヌです。アロース・コルトン村にあり、14世紀の聖マルグリット修道院のベネディクト会修道士によって造られた建物のセラーを使っています。現在の当主は、初代の曾孫フィリップ・セナ―ルで娘のロレーヌがワイン造りを手伝っています(ドメーヌのHPより)

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コルトンのグラン・クリュの畑を多く所有しており、コルトンだけで、赤5種類、白2種類のグラン・クリュ・ワインを生産しています。所有する22エーカーの畑のうち、大半がグラン・クリュというコート・ド・ボーヌの中では珍しいドメーヌです。

日本での知名度は低く、一応「大榮産業」というインポータが輸入しているようですが、ショップ等で目にすることは殆どありません。
銘柄は忘れましたが、コント・スナ―ルは、30年ほど前に「やまや」で購入した記憶があります。「やまや」は、今や全国に店舗展開している巨大リカーショップですが、当時未だ仙台を中心に店舗展開していた頃は、結構尖ったワインを扱っていた記憶があります。アンリ・ジャイエやドーヴネ(ルロワ)等もここで購入したことがあります。もちろん現在と比べ物にならないくらい安かったですが...。ということで、2015年にこのドメーヌを訪れた際にラベルを見て当時の記憶が蘇りました。

▼左が1990年代にも使用されていた旧ラベル、右端が最近のラベルです。

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このドメーヌのワイン造りですが、5~12日の低温浸漬(コールド・マセラシオン)、18ヶ月の樽熟成(新樽率50~60%)とのこと。
低温浸漬は、ブドウを低温(冷却)状態に置くことにより、発酵させないでブドウの果汁を果皮に漬けたままにするという手法で、その後、果汁をゆっくり温めて、そのまま発酵させると色の濃いワインができあがるというものです。低温浸漬では通常、二酸化硫黄(SO₂)を投じます。SO₂を加えるのは殺菌の駆除もありますが、この段階は、ブドウの細胞膜を破壊してより香りを抽出する目的があります。

低温浸漬については、30年前ほど前に大きな物議をかもしています。ちょうど私がワインに興味をもち始めた頃、当時はインターネットもあまり普及していませんでしたが、雑誌等で目にした名前が「ギィ・アッカ」です。ギィ・アッカはレバノン人でブルゴーニュで初めてのコンサルタントになった人物です。ギィ・アッカの手法は、極端に長い低温浸漬で、未発酵のブドウ果汁を大量の二酸化硫黄を加えたうえで、15~25日もの長期の間低温で浸漬させるというものです。
この手法が広まった経緯と顛末については、10年ほど前に刊行されたマット・クレイマーの「ブルゴーニュ・ワインがわかる」という本に詳しく書かれていますが、結論的には、この長期の低温浸漬は、ピノ・ノワールの個性を潰し、長期熟成には向かないということで、今ではギィ・アッカの手法は完全にネガティブに扱われています。

実は、この著書の中で取り上げられているギィ・アッカの手法を採用した造り手のひとりが、このドメーヌの先代当主のダニエル・スナ―ルで、マット・クレイマーは、当時のこのドメーヌのワインを酷評しています。

もっとも、低温浸漬自体は、鮮やかな色調やアロマティックな香りを生み出す手法として、今では、多くの造り手に採用されています。5~10日というところが多数のようです。9月に訪問したドメーヌ・デュ・シャトー・ド・ラトゥールもかつてはギィ・アッカの指導を受けたドメーヌですが、現在も短期の低温浸漬を行っているようです。

コルトンとコント・スナ―ル

ディジョンからボーヌを目指し、コート・ド・ニュイを過ぎ、コート・ド・ボーヌに入って最初に目に入るのが、コルトンの丘(Bois de Corton)です。標高388m程度の小高い丘ですが、周りが緩やかな丘陵地ということもあり、結構シンボル的な存在として目立つ存在です。コルトンの丘は、アロース・コルトン、ペルナン・ベルジュラス、ラドワ・セリニ(ニュイ・サン・ジョルジュに隣接する村です)の3つの村と接していますが殆どの有名な畑は、アロース・コルトン村にあります。コート・ド・ボーヌ地方では、唯一赤ワインの特級の産地であり、コート・ドールの中で、唯一、赤白両方の特級畑があるアペラシオンでもあります。
コルトンは、同じグラン・クリュでも、最近高騰する一方のコート・ド・ニュイのワインに比べるとリーズナブルな価格に留まっています(DRCのコルトンは例外ですが...)

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コルトンの丘(2015年)

コント・スナ―ルがコルトンに所有する畑は、赤がブレッサンド(Bressandes)、クロ・デュ・ロワ(Clos du Roi)、クロ・ド・メ(Clos des Meix)、レ・ポーラン(Les Paulands)、アン・シャルルマーニュ(Un Charlemagne)の5つ、白が、コルトン・シャルルマーニュ(Corton Charlemagne)、コルトン(Corton)の2つになります。

シャルルマーニュの赤というのは、あまり聞いたことがないワインです。コルトンの白も生産量が限られている希少なワインです。

コント・スナ―ル訪問記

2015年と2019年の2度このドメーヌを訪問しています。

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▼2019年訪問は、収穫間近の9月5日で、収穫を手伝ってくれる人の募集をしていました。

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ドメーヌに入ると、こんな人懐っこい犬が出迎えてくれます。名前は「イチ」とのこと。
下は2015年訪問時のものです。

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▼そして、4年後の2019年訪問時も健在でした。

f:id:turque1991:20191125011659j:plain一般客向けのカーヴ公開は行っていないようですが、立派なテースティングルームを持っており、ゆっくりと試飲を愉しむことができます。

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アロース・コルトン等の村名ワイン中心の通常の試飲コースもあるようですが、ここの売りは、グラン・クリュだけの試飲コースです。在庫や飲み頃によって、銘柄やビンテージは変わりますが、グラン・クリュしか出てこない一般向けの試飲は他には無いかと思います。試飲料は、人数により変わりますが、2~3人で60数ユーロ/人ほどだったと思います。但し、ドメーヌでワインを購入することで、この試飲料はタダになります。2015年の時は、グラン・クリュ1本購入でOKでしたが、2019年は2本以上の購入が必要となっていました(結果的に3本購入しましたが)。

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▼2015年訪問時の試飲アイテム(赤)です。

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 左から

コルトン・ブレッサンド   2001年
コルトン・クロ・デュ・ロワ  2004年
コルトン・ポーラン  2005年
コルトン・クロ・デ・メ  2006年
コルトン・アン・シャルルマーニュ  2009年
コルトン・レ・ポーラン  2009年

 当時、個々のワインについて、コメントを残していませんが、華やかな香りや甘い果実味というより、複雑ながら、比較的固くて、収斂性が高いワインが多かったという印象だったと記憶しています。

▼以下は2019年の訪問時の試飲アイテムです。

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左から

コルトン・レ・ポーラン  2010年
コルトン・クロ・デ・メ  2010年
コルトン・シャルルマーニュ(白)2017年
コルトン(白)  2010年
コルトン・クロ・デュ・ロワ  2012年
コルトン・レ・ポーラン  2009年

まず、白の2本です。

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2010年のコルトン白は、ドメーヌの在庫も殆ど無くなってきており、試飲できる最後のチャンスだったようです。ミネラルや果実味も未だ充分感じられますが、熟成を感じさせるノワゼット香がはっきり顕れており、好みのわかれるところかと思います。コルトンの白は、日本では殆ど見かけません。生産量は、赤の17分の1程度と希少です。

2017年のコルトン・シャルルマーニュは、いきいきとした酸と柔らかい果実味が特徴的で、複雑性を味わうには、未だ数年が必要です。2017年の白については、日本の専門誌は高く評価しているようですが、現地では、(暑さの影響もあり)酸がややダルという評価もあるようです。2017年は未だ出始めたばかりで、それほど飲んでいる訳ではありませんが、赤も含めて、特に2016年に比べると酸は総じて柔らかい気がします。早くから飲めるというのは確かなように感じます。

続いて赤の試飲です。

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2012年のクロ・デュ・ロワは、未だ紫も入ったルビー色、スミレ、薔薇、ラズベリーアメリカンチェリーの赤い果実、甘草の香り。熟成香はそれほど出ておらず、まだまだ若い印象です。
2009年のポーランは、ラズベリーにプラムといった赤黒系果実、クロ・デュ・ロワに比べスパイシー感を少し強く感じるワインです。収斂性もそこそこ感じ、2009年の性格が出ているようです。

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次に(左端の)ポーラン2010年とクロ・デ・メ2010年です。
試飲の最後は、もっぱらこの2本の珍しい特級畑の話題になりました。

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コルトン・クロ・デ・メは、コント・スナ―ルの単独所有畑(モノポール)です。ドメーヌの近く(裏手?)にある、面積1.64ha程度の畑で、樹齢は30年、約4000本のワインを産出しています。新樽比率は50%とのこと。石灰質が多い畑のようで、やや強い収斂性を感じます。2015年にドメーヌで購入したワインが、このクロ・デ・メの2005年ですが、購入後2年後に飲んだ際も、未だ結構タニックな印象でした。

一方コルトン・レ・ポーランですが、こちらもあまり聞かない畑です。モノポールではありませんが、所有者はドメーヌ・コント・スナ―ルとぺルナン・ベルジュラスのドメーヌ・ドニの2人のみとのこと。ドメーヌ・ドニのワインは、日本にも輸入されていますが、この銘柄は、日本には入ってきていないようです。それぞれ、年1500本程度といういことで、日本で見かけることはまずないと思います。

3人いるドメーヌのスタッフのひとりBaptiste(バプティスト)さんが、写真を使いながら、畑の説明をしてくれます。

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モノポールのクロ・デ・メは、繊細ながらタンニンがはっきりしており、収斂性を感じさせるコルトン、一方、ポーランは、力強いものの、少し柔らかく、まろやかな味わいのコルトンです。

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購入したワインですが、悩んだ結果、

コルトン・シャルルマーニュ  2017年
コルトン・ブレッサンド  2015年
コルトン・レ・ポーラン  2005年

の3本です。

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最後のワインは、クロ・デ・メかレ・ポーランか迷いましたが、テースティングの結果とお気に入りの2005年の在庫があったことから、レ・ポーランを選びました。

コルトン・レ・ポーラン 2005年

ドメーヌで購入したレ・ポーラン2005年を約3ヶ月休ませて自宅で飲みました。

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縁がレンガ色がかった明るめのラズベリーレッド。ラズベリー、ダークチェリー の赤黒果実、ドライハーブ、甘草、黒胡椒。特にタバコ、ややスモーキーな香りが際立って印象的。抜栓直後は、やや酸が支配的でしたが、直ぐに落ち着き、紅茶、なめし皮、腐葉土、下草といった好きな熟成香がどんどん顕れてきます。スパイシー一辺倒ではなく、柔らかく、徐々に甘露な味わいに変化していきます。まさに2005年のブルゴーニュらしい素晴らしさを伝えてくれるワインでした。

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コント・スナ―ルのワインは、決して華やかなタイプではなく、どちらかと言えばクラシカルな造りのブルゴーニュワインだと思います。最近、注目を浴びているトロ・ボーのようなワイルドでジューシーなタイプとも全く異なります。どちらかと言えば、長熟(ヴァン・ガルド)タイプで、若いうちは気難しく、リリース後10年以上寝かせて本領を発揮するワインです。

今回のレ・ポーランで経験したように、飲み頃を迎えれば、素晴らしく複雑な香りと味わいが楽しめるワインだと思います。

何よりも、このドメーヌのテースティングは楽しめます。ボーヌを訪れる機会があれば、是非お勧めします。

<了>

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