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ブルゴーニュワインとチーズをこよなく愛するシニアのブログです。素晴らしいお酒とチーズの出会いを中心に日常を綴ります。

シャルムとマゾイエールの違い?~二コラ・ポテル2008年

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ジュヴレ・シャンベルタンの9つのグランクリュのうち、シャルム・シャンベルタンとマゾワイエール・シャンベルタンは、類似したテロワールを持ち、産出されるワインの性格も類似していることで知られます。本当に区別が付かないほど似ているのかを確かめたく、たまたま入手できた二コラ・ポテルの2008年で飲み比べてみました。

 シャルム・シャンベルタンのワインは、豊かな果実味と柔らかいタンニンが特徴で、ジュヴレ・シャンベルタンの特級畑のワインの中でももっと早く飲め、価格的にも他の特級畑に比べてこなれている為、人気があるグラン・クリュワインです。
一方、マゾワイエール・シャンベルタンは、ジュヴレ・シャンベルタンの特級畑の南端にあり、シャルム・シャンベルタンに隣接しています。標高的にもほぼ同じ位置にあり、産出されるワインは類似性が強いことから、マゾワイエールのワインはシャルム・シャンベルタンを名乗れることになっています(逆にシャルム・シャンベルタンのワインはマゾワイエール・シャンベルタンを名乗れません)

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マゾワイエールとシャルム両方を合わせると30haほどの広さになり、ジュヴレ・シャンベルタンの特級の3分の1を占めますが、シャルム・シャンベルタンの方が知名度が高いうえ、マゾワイエール(Mazoyères)というのが英語圏では発音しにくい為、マゾワイエール・シャンベルタンに畑を持つの多くの生産者は、シャルム・シャンベルタンを名乗っているようです。マゾワイエールとシャルムを別々な名前でリリースしている有名なドメーヌとしては、ベルナール・デュガ・ピィ、ペロ・ミノ、カミュなどが挙げられます。

2つのクリュは、他の畑同様、石灰粘土岩の土壌を持ちますが、マゾワイエールは、コンブ・グリザールという谷間の下にあり、石灰岩質の土壌のほか、他のグラン・クリュにはない砂利混じりの沖積土(崩積土)に覆われたやや厚い表土を有し、女性的なシャルムに比べると野生的な香りを持ち骨格がよりしっかりし、男性的なワインと評している生産者もいます。

ちなみに、デュガ・ピィのシャルム・シャンベルタンには、マゾワイエールのブドウが1/3使用されていますが、それとは別に100%マゾワイエール産のマゾワイエール・シャンベルタンをリリースしています。これは、入手したマゾワイエールの畑が異なる為で、後者は、シャルムと違った性格をもつワインが出来たことにによることが理由のようです。

とはいえ、殆ど区別がつかず、比較は無意味と指摘する意見もあり、同じ造り手、同じビンテージのワインを入手したことから比較してみることにしました。

「メゾン・二コラ・ポテル」ですが、ここの歴史は複雑です。
二コラ・ポテル氏の父ジェラール氏は、ヴォルネィ村のプス・ドールというドメーヌで長く醸造長を務めてきました。しかし1997年に他界し、それを機に息子の二コラは株式を売却し、既に父と立ち上げていたネゴシアンの「メゾン・二コラ・ポテル」に専念しました。しかし、諸事情により、メゾンを大手に売却してしまいます。その後、2008年にネゴシアンの「メゾン・ロッシュ・ド・ベレーヌ」を立ち上げ、更に所有畑ものの「ドメーヌ・ド・ベレーヌ」を立ち上げています。本来ならば自分の名前を使うところですが、二コラ・ポテルの名前は既に商標登録、すなわちブランド名になっており、ポテル氏には使用権がなかったことから、このような名前になったのが経緯です。
今回の2008年ヴィンテージは、メゾン・二コラ・ポテルでワイン造りに関わっていた最後の年になるようです。

抜栓はほぼ同時に行いました。なぜかコルクのデザインが異なります。

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▼右がシャルム、左がマゾワイエールです。

どちらも、やや淡いルビー色ですが、マゾワイエールの方が明るく艶があります。シャルムの方は、少し暗く、縁にレンガ色が混ざります。

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どちらも、なかなか香りが立ちません。30分程すると、シャルムの方は、華やかでないものの、ラズベリーやダークチェリーの香り、さらに時間をおくと、土っぽい香り、タバコ、紅茶と言った熟成香が現れます。タンニンは丸く溶け込んでいますが、2008年らしいはっきりした酸が感じられます。

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一方のマゾワイエールですが、こちらは、色調通り、未だ若々しくタンニンもそこそこ感じます。ただ強い収斂性を感じさせるようなものではありません。ラズベリー、フランボワーズ、赤スグリ、スミレ、ハイビスカス、最初だけですが、このクラス、このヴィンテージであまり感じないキャンディっぽい香りも少し感じます。シャルムと異なり、熟成を示す香りは殆ど感じ取れません。

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2つのワインは2日に渡って味わいました。

▼揚げ湯葉と焼き鳥です。グランクリュのワインには、どうかと思う料理ですが.....

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▼2日目は、チキンロールと鴨とオレンジのサラダです。
もう少し香りが開くと思っていましたが、香りの立ち方は、初日とそれほど変わりはありません。マゾイエールの方は、やや酸化っぽいニュアンスが出てきました。シャルムの方は、殆ど変わりませんが、気持ち、更に柔らかく感じられます。

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2つのワインを飲む比べる前は、殆ど区別がつかないだろうと思っていましたが、予想を裏切り、色調・香り・味わい、全て異なるワインでした。

しかし、この差がテロワールの差を表しているとは言い切れません。そもそもメゾン・二コラ・ポテルは、生産者からブドウを買い取って醸造するネゴシアンです。当然ながらネゴシアンは、ブドウ生産者の名前を明かしませんし、畑の区画も不明です。従って、シャルムとマゾワイエールは異なるブドウ生産者かもしれません。また、それぞれの樹齢も不明です(VVの表示はないので、古樹ではないようです)。

とはいえ同じワイン生産者で、ほぼ同等と思われる2つの畑から産出されるワインの性格がここまで違うのは意外でした。

ブルゴーニュ赤の2008年ヴィンテージはやはり難しい気がします。どうしても酸が気になってしまいます。(一般的な評価ではなく)個人的な感覚ですが、抽出が強い造り手ほど、このヴィンテージで成果を出しているような気がします。同じジュヴレ・シャンベルタンでも2年ほど前に飲んだクロード・デュガのジュヴレ・シャンベルタン・1erCruや、最近飲んだベルナール・デュガ・ピィのプティ・シャペルは、バランスの取れた素晴らしいワインでした。

2008年の二コラ・ポテルのワインには、若干モヤモヤ感が残ったので、翌日、思い切って、もう一本同じメゾンのグラン・クリュを開けてみました。

マゾワイエールとは、国道を挟んで向かい側(西側)に位置する特級畑、ラトリシエール・シャンベルタンです。

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但し、同じヴィンテージが無かったので、こちらは、2005年ヴィンテージです。

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グレートヴィンテージの2005年だけあって、色調も濃く、まだまだ若々しく見えます。
香りも、2008年のシャルム、マゾワイエールと異なり、抜栓直後から漂います。ただ、すごく華やかなものではなく、2005年のグラン・クリュにしては、やや控えめです。
熟したラズベリー、ダークチェリーの香り、ドライハーブ、甘草、黒胡椒、そして、暫く経つと、紅茶や腐葉土の香りも出てきます。ジュヴレらしい鉄っぽさも顕れてきます。酸は果実味やタンニンに隠れ気味であまり目立ちません。非常にバランスよく熟成している感じですが、2005年のグラン・クリュに期待する甘露さは、あまり感じられません。ベストな飲み頃は、もう少し妖艶さが出てくると思われる4~5年くらい先と思われます。
同じワインをもう1本、更に、評価がすこぶる高かったシャンベルタン2005をストックしているので、その頃に飲んでみたいと思います。

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最近ハマっているスイスのセミハード・チーズ「ヴュリー・ルージュ」と合わせました。表面をピノ・ノワールのワインで磨いたチーズで、相性も抜群です。

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結局、3日連続で3本のジュヴレ・シャンベルタン・グランクリュを味わうことになりました。

本題のシャルムとマゾワイエールの違いに関しては、違いは見いだせたものの、前述の理由もあり、これが両者のテロワールを素直に反映したものとは、思えませんでした。ヴィンテージ的にも難しいものがあり、二コラ・ポテル氏が新ドメーヌを立ち上げた年に、メゾン・二コラ・ポテルでのワインメーキングに最後に関わった年であったことも色々と詮索をしてしまいます。

当然ながら、ブドウ栽培を含めた同じ生産者による、この隣接する2つのワイン飲み比べるのがベストなのですが、デュガ・ピィもペロ・ミノの高くて簡単には手に入れられません。唯一現実的なのは、信じられないほどの値頃感のあるドメーヌ・カミュ―でしょうか?

もしかすると二コラ・ポテルのブドウの調達先は、このカミュ―かもしれませんが....(あくまで推測です)

<了>