バッカスのささやき

ワインとチーズをこよなく愛するシニアのブログです。素晴らしいお酒との出会いと趣味のブルーベリー栽培を中心に日常を綴ります。

「天明」限定酒飲み比べ

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福島県会津坂下町の酒蔵、曙酒造の「天明」飲み比べです。蔵名同様、「夜明け前の様子」を表すブランド名が示すように、伝統を守りながら新しい挑戦が感じられる限定酒は、まさに杜氏の熱意と挑戦が感じられる日本酒でした。

明治37年創業の曙酒造は、創業者で初代の鈴木幸四郎氏以降、3代続けて女性が蔵元に就いており、女系の酒蔵という歴史を持っています(現在は、4代目蔵元の鈴木明美さんの息子、鈴木孝市氏が蔵元を務めています)

杜氏の由来の「刀自」は、女性のみに使われていた敬称で、酒造りは、平安時代までは、女性によって行われてきました。ところが江戸時代ころから、女性が酒蔵に入ることは、穢れをもたらし、腐造(酒が貯蔵中に白濁してダメになること)の原因になると信じられるようになり、昭和20年代まで女人禁制が続いていたと言われています。
ちなみに、尾瀬あきらによる日本酒をテーマとした漫画「夏子の酒」の続編の「奈津の蔵」という漫画で、まさに、この時代の中で、酒蔵に嫁いだ女性の苦悩が描かれています。
このような時代背景を考えると非常に珍しい酒蔵と言えると思います。

天明」は純米吟醸を中心に何度か飲んでいますが、年末に秋冬限定酒がリリースされたので、飲み比べてみました。 

天明 純米吟醸 山田錦 本生

山田錦 100%
精米歩合 麹米50%、掛米55%
日本酒度 +3
酸度 1.9
アルコール度数 16度

これは、限定酒でなく、ノーマルラインナップ(但し生酒なので時期限定)です。

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協会9号・ふくしま煌酵母・自社酵母という3種類の酵母で仕込まれた3本の酒をブレンドするという手の込んだ造りで、「香り」と「旨味・甘み・酸味」のバランスを表現しています。

米の香りは弱く、メロン、マスカット、(生酒特有の)桃の香り等の果実香が最初の印象です。白い花や新緑の香りも。適度な酸もありますが、甘みが支配的で、日本酒度以上に甘く感じます。苦みもあまりまく、スルスルと飲めてしまいます。日本酒を飲みなれていない人でも全く抵抗がなく、受け入れられるタイプだと思いますが、吟醸香の主張が強いので少し料理は選びそうです。

天明 山廃酛 特別純米 「焔」

麹米 山田錦  掛米 五百万石(いずれも会津坂下産) 
精米歩合 麹米55%、掛米60%
日本酒度 ±0
酸度 1.5
アルコール度数 16度
無濾過生原酒

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まず、冷で。
他の純米吟醸に比べて、上品な炊いた米の香りが明確に出ています。山廃の酸味はアクセント的に出ていますが、際立っているという感じではありません。ボリューム感のある旨味は冷でも感じ取ることができます。

ラベルに「優しく包み込むように燗めて」書かれているように蔵元は、燗を推奨しています。そこで、ぬる燗です。

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まろやかながら、冷で飲むよりも、よりはっきりした酸が主張してきます。乳酸の造り出すサワークリームっぽい酸です。甘み・旨味のバランスも絶妙で、これは、やはり燗で飲むのが最高の日本酒です。煮物や冬の鍋に絶妙に合うワインだと思います。

天明 純米大吟醸 純米大吟醸無濾過生 荒セメ閏号  1460D+1D REUNION おりがらみ本生

兵庫県山田錦  
精米歩合 30%
日本酒度 -6.0
酸度 1.2
アルコール度数 16度

「荒ばしり」は、槽搾り(もろみを詰めた酒袋を一枚一枚積み重ねていく、上から圧をかけて絞る方法)において、最初の搾り始め、すなわち一番搾り、もろみの重さだけでで自然に絞られてくるお酒で、荒々しい味わいになります。その後の搾り途中の酒が「中取り(又は中ぐみ)」、搾り終盤の酒を「責め取り」と呼びます。

もっとも綺麗で透明感のあるのが「中取り」で、「荒ばしり」は、最も華やかで甘く、うす濁りでフレッシュな特徴をもちます。「責め取り」は、味が最も濃く、辛みも強くなります(アルコール度数が最も高い)

荒セメは、荒ばしりと責め取りのブレンドです。

4年に1回の閏年にリリース(今回は2020年)されているようで、
1460D+1D REUNIONというのは、365日×4年(1460日)+1日に一度再会するという意味のようです。

酵母は、協会1801号酵母。この酵母は、酢酸イソアミル及びカプロン酸エチルを多く生成する酵母で、特に、カプロン酸エチル高生産酵母は「セルレニン耐性酵母」、別名「香り酵母」と呼ばれ、極めて華やかな吟醸香を作り出します。

※ちなみに2017年に受験したソムリエ協会のSake Diplomaの2次試験で、「香り酵母」について自由記述させる問題が出ました。

ちなみに「焔」シリーズに準じて、試しに燗にしてみました。
やたらと甘さのみが強調させる結果になりました。流石に、この燗はダメです。

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カプロン酸エチル由来のリンゴの香りに加えて酢酸イソアミル由来のバナナの香り、パイナップル、マンゴ等の南国フルールも感じられます。抜栓直後アタックに微発泡とまで行かない僅かなシュワシュワ感。口に含むと、甘く、とろみを感じる程の濃厚な味わい、中盤に酸を感じますが、やや弱く、後味にはやはり甘みと旨味を感じる僅かな苦みが広がります。これは凄くインパクトのある日本酒です。
流石にこの香り酵母が造り出す吟醸香や甘みは特筆ものですが、酸度がやや低くなる傾向があるようです。

ちなみに「焔」シリーズの燗

精米歩合は30%で、価格が23K円というのも驚きです。

天明 生酛純米大吟醸 本生「焔(HOMURA)」

会津産亀の尾 100%
精米歩合 29%!
日本酒度 +2.0
酸度 1.6
アルコール 16度
酵母 協会9号

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精米歩合29%、生酛造り、本生、地元産の「亀の尾」と造り手の本気と熱意が詰まった限定酒です。ラベルに「時・素材・手間・技術・想い。現在弊社で注ぎ込めるものすべてここに集め、抱きしめ、醸しました」とあります。

香りは、このワインが一番。メロン、桃、リンゴの吟醸香。酸と旨味を伴う苦み。華やかで、綺麗な日本酒です。 

ぬる燗でも飲んでみました。
純米大吟醸酒を燗にするのは、ちょっと禁じ手かもしれませんが、悪くはありません。華やかな香りや甘みはそのままで、酸が際立ってきます。冷で感じたアフターの苦みは殆ど目立たなくなり、全体的にまろやかな印象になります。

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チーズは、熟成ゴーダとフランスの工場製チーズ「カプリス・デ・デュー」、白カビのダブルクリームチーズ(生乳に生クリームを加えたチーズ)です。

熟成ゴーダは、結構濃厚で旨味が口いっぱい広がります。ただ、繊細な吟醸香を消してしまう力強さがあり、相性については?です。カプリス・デ・デューについては、カマンベールに比べても癖のないまろやかなチーズで、フルーティな吟醸香を邪魔しません。ただ特段に引き立てることもありません。普通に相性が良いというチーズだと思います。

今回の比較は、今の季節でなくてはできない飲み比べだと思います。生酒の華やかさとフレッシュさ、高精米、香り酵母の生み出す吟醸香、生酛・山廃造り由来の酸、と色々な要素を高いレベルで味わうことができました。

やはりインパクト的には、4年に1回リリースの「荒セメ閏号」でしょうか?甘みが強すぎる日本酒はあまり好みではないのですが、そういう次元でない素晴らしさがあります。

「焔」の特別純米は、蔵元の勧める燗で本領が発揮される日本酒です。燗にして、旨味がより強調され、豊かな酸で、幅広い食事にあわせられるという点で、気に入りました。

そして、「焔」の純米大吟醸は、流石に造り手の情熱が伝わる素晴らしく綺麗な酒質をもつ1本です。山廃も生酛も新酒でのリリースですが、熟成させて飲みたくなります(生酒よりも火入れで出してもらいたいと思います)。

精米歩合30%以下の純米大吟醸としては、信じられない価格設定(32K円)を含め、造り手のチャレンジ精神に満ちた日本酒だと思います。

(了)