Bon Vin , Bon Sake , Bon Fromage

ブルゴーニュワインとチーズをこよなく愛するシニアのブログです。素晴らしいお酒とチーズの出会いを中心に日常を綴ります。

ナチュラルチーズと味わう島根の銘酒「王祿」

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明治五年創業の島根松江市東出雲町の王禄酒造の「王祿」です。蔵を代表する「超・王祿純米」とフランス産ナチュラルチーズを合わせてみました。同時に飲んだ「天狗舞山廃生原酒」との生原酒飲み比べと、少し前に飲んだ「王祿純米吟醸TAKEMICHIブルー」についても書きたいと思います。

「王祿」は、島根の銘酒として、カリスマ的な人気があるようです。
-5℃での保存という徹底的な温度管理が求められるため、販売店が限定されており、入手しにくいというのも要因かと思われます(全国で特約店は34、東京でも、6店舗のみになります)。今回は、しばしば利用する目黒五本木の「ますもと酒店」から購入しました。ちなみに、店内には、王祿専用の冷蔵ケースが設置されています。

超王祿 無濾過生原酒(春季限定) BY2018

王禄は、1本の仕込みタンクから5種類の酒を取り分けています。☆の数が多いほど、取れる量が少なく希少な酒です(裏ラベル表記より)
 中取り☆☆☆☆☆ ⇒最も希少、2月に入荷予定のこと
 直汲み☆☆☆☆
原酒限定☆☆☆ ⇒今回飲んだのは、この春季限定版です
  生詰☆☆
  本生★ ⇒スタンダードラインで初めて飲む人にはこれを勧めている

米:東出雲町山田錦100%、精米歩合:60%、アルコール分:17.5%
日本酒度:+9.5、酸度:2.4

酸度が2を大きく超えていることから、結構酸味が強いことが予想されます。

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出荷はR1.12ですが、醸造年度(BY)は2018年、すなわち生酒ながら、1年程熟成させているようです。氷点下で熟成させているので、開栓直後はほとんど色は付いていませんが、数日置くと、僅かにイエローがかってきます。味わい含めて開栓後の変化は比較的早いようです。
生酒特有のメロン・桃の甘い果実香も一瞬感じますが、それほど華やかな香りでなく、どちらかいうと白い花や上品な米や上新粉の穏やかな香りです。
口に含むとアタックにまず甘みを感じ、直ぐに酸味が口中に広がり、苦みを伴う長めの余韻があります。

今回、「天狗舞 山廃純米」の生原酒と比較してみました。こちらも今の季節限定です。

精米歩合は60%と王禄と同じ純米酒です。アルコール度数表記は18度。

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どちらも生酒らしい果実香と原酒らしいとろみと力強い酒躯を持ちます。
アルコール度数的には、0.5度しか違いませんが、天狗舞の方が重く感じられ、続けて何杯も飲むとも飲み疲れしてしまいます。王祿も生原酒なので他の王祿に比べると重いようですが、同時に酸が造り出すキレが比較的あり、意外にも(生原酒にしては)さらりと飲めます。ちなみに天狗舞は、2週間かけてチビチビと飲みましたが、王祿の方は、3日ほどで空になりました。
生酒の甘みと強い酸味、苦みが混然一体とした旨味に昇華している感じです。
この旨味、色々な食事に合わせ易そうな気がします。

そこで、いくつかのフランス産のナチュラルチーズと合わせてみました。

コンテ18ヶ月、ボーフォール、ルブロション・ド・サヴォワ、ブルー・ド・ジェックスの4種です。

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まず、コンテ18ヶ月とボーフォール(エテやダルパージュでない普通のボーフォールです)。どちらも濃厚な旨味を感じるセミハードチーズです。
王祿の旨味とチーズの少し甘さと塩味を伴う旨味が調和して、非常に良く合います。この2つは、日常的に食するチーズで、たいていの日本酒に合うと感じていますが、中にはチーズの濃厚さに負けてしまう日本酒もあります。酸や旨味が突出している超王祿は、このチーズの濃厚さに決して負けることなくお互いに引き立ててくれる印象です。

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次にフランスのサヴォア地方のAOPチーズ、「ルブロション・ド・サヴォワ」です。
「ルブロション」というのは、「再び絞る」という意味の「ルブロシェ」が語源で、当地の農民が、地主搾乳量を調べに来た後に、こっそり搾った乳でこのチーズを作っていたといわれたことで、この名が付いたと言われています。日本に例えると、厳しい年貢制度に対する農民の知恵から生まれたチーズのようです。
▼4分の1ホールです。

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藁のある納屋のような独特の香りがあります。まるで納屋の中で搾乳している場面が浮かぶような(?)香りです。カビに覆われた少し硬めの外皮がありますが、そのまま食べられます。中は黄色く、クリーミーで、穏やかな風味です。 相性:f:id:turque1991:20200207010904p:plain

ブルー・ド・ジェックスはフランス ジュラ地方の山小屋で造られる牛乳製チーズです。

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黄色味がかっていますが、特に濃厚という訳ではなく、意外に穏やかで少し苦みを伴う風味が特徴です。フルムダンベールやロックフォールのように旨味が突出した青カビチーズではありません。比較的穏やかとはいえ、青カビのシャープ・塩味はあるので、日本酒の甘みと相反的に合います。また苦みは、同調的な要素になっており、相性はまずまずだと思います。相性:f:id:turque1991:20200207010936p:plain

今回試していませんが、酸味のあるシェーブルチーズとの相性も良いと思います。

▼チキンのマスタードあえ。

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これ以外に、ブリの味噌焼きに合わせましたが、味噌の旨味とみりんの酸味との相性は最高です。味噌のもつ旨味は、ワインには結構合わせずらいのですが、この手の日本酒だとすんなり馴染みます。今回は試していませんが、燗でも良さそうです。-5℃での保管が義務付けられているようですが、少なくとも飲むときは常温近くまで温度を戻した方が良いかと思います。

次に、王祿の純米吟醸です。

王祿 純米吟醸 本生 丈径ブルー 2017

米:東出雲町山田錦100%、精米歩合:55%、アルコール分:15.5%
日本酒度:+5.6、酸度:1.8

こちらは、家のみでなく、焼き鳥居酒屋に持ち込みです。丈径(TAKEMICHI)といのは、蔵元杜氏の石原丈径さんの名前からとられています。
上記の生原酒と異なり、加水してあります。29BYなので2年程熟成しています。こちらも低温化で熟成させているので色の変化はあまり感じません。

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超王祿の生原酒に比べると、流石にがっつん感はなく、比較的穏やな印象で、すっきりした酒質で、するすると飲めてしまいます。ただ、やはり酸はある程度しっかり感じられる印象です。旨味も適度にのっており、より料理に合わせ易いと思います。一応精米歩合55%の純米吟醸酒のようですが、香りを楽しむというより旨味を愉しむ日本酒だと思います。こちらもギンギンに冷やした状態でなく、温度を少し上げた方が旨味が愉しめるようです。

今回飲んだ王禄は、純米生原酒と加水した純米吟醸生酒の2本ですが、いずれも酸が基調になっています。その点は「新政」にも似ていますが、こちらは完全な辛口に仕上がっています。純米大吟醸を飲んでいないので、断言できませんが、香りで圧倒するようなタイプではなく、「甘み」・「酸味」・「苦み」が生み出す旨味を特徴とした日本酒のように思います。そして、特に酸味を生かした旨味が、幅広い料理に合わせられるというメリットを生み出してように感じます。
入手先が限られる日本酒ですが、価格的には「超王禄」であれば2千円以内で余裕で買えます。「丈径」に関しても良心的な価格です。

機会があれば、他の種類も飲んでみたいと思います。

<了>