ディジョンのマルク・ソワイヤール(ドメーヌ・ド・ラ・クラ)のブルゴーニュ ルージュ モノポール クラ2019年です。マルク・ソワイヤールは、かつてドメーヌ・ビゾーでジャン・イヴ・ビゾの片腕としてドメーヌの価値を高めた人物です。
以下、マルク・ソワイヤールとドメーヌ・ド・ラ・クラのインポーター情報です。
マルク・ソワイヤールはボーヌの醸造学校で学び、アヴィニヨンで高等技術者資格を修得後、各地のワイナリーで研修し、2007年に栽培醸造学の学位を修得したその年、ヴォーヌ・ロマネのドメーヌ・ビゾでジャン・イヴ・ビゾとのワイン造りを開始。6年間、ビゾ氏の片腕としてドメーヌの価値を高めました。この間、マルクは少しづつ彼自身の葡萄畑を購入し拡大していきました。
かつてコート・ドール以上の見事なワイン産地として評価を得ていたコトー・ド・ディジョンですが、ディジョン市の西に広がるブドウ畑はディジョン市の工業化と共に労働者達の日々の喉を潤すワインに変わり、忘れ去られたこの地のワイン造りをディジョン市は復活させようと、銘醸と謳われたドメーヌ ド・ラ・クラを購入し、2014年に美食の街ディジョンに相応しいワイン造りを行う造り手を広く公募し、数多くの応募者から選ばれたのがマルク・ソワイヤールでした。
ディジョンは、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏の首府でコート・ドール県の県庁所在地でもある大きな都市(ボーヌよりはるかに大きい)で、ワインの銘醸地コート・ド・ニュイの北に位置します。コート・ド・ニュイの最北はマルサネというイメージがあり、このあたりは、ブドウ産地として、殆ど注目されることはないかと思います。
マルク・ソワイヤールはドメーヌ ビゾで行ってきたこと、栽培・醸造に於いて出来る限り人的な介在を行わない事や醸造法も自然なスタイルを重要とするビゾで学んできた哲学を自らが主導するドメーヌ ド・ラ・クラで実践しています。同時に彼が自ら所有するブドウ畑1.18haから見事なワインを生み出しています。ブルゴーニュの次世代を代表する造り手としてマルク・ソワイヤールは2016年6月ニューヨークタイムズのワイン特集で紹介された注目の生産者です。
師匠であるビゾーのワインは、数年前から投機対象となってしまい、信じられないような高価格で取り組引きされています。価格高騰前に何回か飲んだことがありますが、今は、全く手が届かない存在です。
ちなみに、ビゾーの購入歴を調べたところ、2011年に2009年のエシュゾーと2008年のヴォーヌ・ロマネ・ジャシェを28,800円で購入した記録がありました。Wine-Searcherで2009年エシュゾーの価格を調べると$13,149(170万円)!です。
そんなわけでビゾーのワインを手に入れることは、実質不可能ですが、そのスタイルを継承した弟子のマルク・ソワイヤールのワインを飲んでみることにしました。
まず、先日飲んだ、下記のワインから。
ドメーヌ・ド・ラ・クラ ブルゴーニュ ルージュ モノポール クラ 2019年
2019 Domaine de la Cras Bourgogne Rouge Monopole Cras
以下、テクニカルデータです。
ビオロジックて耕作されたブドウを手摘みし選果後、全房で15日間のカルボニック・マセレーションを行い、自生酵母を使用し発酵槽で2週間25℃で発酵後、搾汁され新樽45%の228Lフランス産オーク樽で18ヶ月熟成。
縁にわずかにレンガ色が入るが、中心には紫を残す艶のあるラズベリーレッド。粘性は高そうだがAlc12.5度と普通。それほど華やかではないが、ラズベリー、ブルーベリー、ダークチェリーの果実香。僅かにビターなニュアンスも。リコリスやタバコ。豊かだがぎりぎり強すぎない酸のアタック。熱量を感じない冷涼さを感じするドライな味わいだが、果実味に痩せた感じはない。後半から余韻にかけては、しっかりとしたタンニン。
余韻はやや長め。
ややクラシカルなタイプと感じましたが、
1時間半ほど経つと、ナチュラルワイン的な梅紫蘇系の香り、さらに少し動物的な香りが出てきます。後述しますが、以前、この銘柄の(モノポールでない)スタンダードキュヴェを飲んでおり、この時は、この香りが最初から出ていました。色合いも僅かな紫は消えて落ち着いた色合いになります。少し残念なのは、時間経過とともに、やや酸が目立つようになります。
(3.5)
このワイン、抜栓してから結構変化するので、時間をかけて楽しむか、デキャンタージュした方が良いかと思います。
↓ややスパイシーなチキンウィングと。
ちなみに、蝋キャップでした(モノポールだけ?)
↓裏ラベルには、生産本数3528本、41本のマグナム、8本のジェロボアムとあります。
おそらくモノポールのみの本数だと思います。
↓こちらはドメーヌ・ド・ラ・クラのスタンダード・キュヴェです。ちなみに、こちらのキュヴェは、クローン・セレクション(モノポールはマサル・セレクション?)で生産量はやや多いようです。
こちらは2022年3月に飲んでいます。
ドメーヌ・ド・ラ・クラ ブルゴーニュ ルージュ クラ 2019年
2019 Domaine de la Cras Bourgogne Rouge Cras
平均樹齢33年の区画のピノ・ノワールを使用。手摘み収穫後、全房で木製の発酵槽に移されセミカルボニックで醸造、30%新樽にて15~18か月熟成。ボトリング時のみに少量のSO2添加をおこなう。ノンフィルターで瓶詰め。
このワインのテースティングメモです。
深みのあるやや濃いめのラズベリーレッド。2019年にしては、少し熟成を感じさせる色合い。抜栓後、すぐに梅紫蘇やラズベリーやチェリーの優しい香り。何故か熟成で感じられる腐葉土的な香り(ビオ香かも)やマッシュルームも。アタックには豊かな酸を感じ、続いて熟度を感じさせる果実味。タンニンはきめ細かい。バランス的にはやや酸が優勢だが、数年後には素晴らしい味わいになると思われる。掘り出し物。
(3.6)
えらく印象に残ったワインでした。
続いて、期待して1ヶ月後に飲んだ2020年のキュヴェ・レキリブリストです。
以下テクニカルデータです。
ブルゴーニュ ピノ・ノワール・キュヴェ・レキリブスト 2020年
2020 Domaine de la Cras Bourgogne Pinot Noir Cuvée L'Equilibriste
ドメーヌ・ド・ラ・クラの平均樹齢40年の区画のピノ・ノワールを使用。手摘みで収穫後、全房100%で木製の開放樽にて醗酵、アルコール醗酵が始まった時点で軽く破砕。(=セミ・マセラシオン・カルボニック)、デキュバージュ(フリーラン+プレス果汁)、その後228Lの樽(新樽なし)にて約10ヶ月の熟成。この過程で一切のSO2添加をおこなわない。瓶詰め前に澱引き、ノンフィルター、後清澄なし。瓶詰め、その際もSO2添加を行わない。
ドメーヌ ド・ラ・クラの樹齢の高い葡萄を使い造り上げたSO2無添加のワイン。その名L'Equilibristeとは綱渡り芸人、しかも剃刀の刃の上を渡っています。SO2無しでの醸造の危険さとそれを乗り越えたワインが拍手喝采を浴びるとのイメージを表現しています。
このワインのテースティングメモです。
紫色が残る濃いめのラズベリーレッド。
ラズベリーやクランベリーの赤系果実の香りが前面に出て、フレッシュで若々しい印象。少しハーブっぽい冷涼さも感じる。味わいのアタックに強い酸を感じ、余韻まで続く。タンニンは粗くないが、割と単調なテクスチャー。
(2.5)
SO2無添加ということで、早めの抜栓でしたが、酸の強さは、ブドウが早摘みなのか、酸を円やかにするマロラクテティック発酵(MLF)が軽いのか、SO2無添加の影響か?はわかりません。少なくとも自分の好みではありませんでした。
ナチュラルさを最も感じられたのが、ドメーヌ・ド・ラ・クラのスタンダードキュヴェでした。モノポールは、より複雑さは感じられましたが、開いて、ナチュラルさを感じるのまでには時間がかかりました。
これが、ビソーのスタイルかは、ビゾーのワインを最後に飲んだのが、あまりにも昔のことなので判断つきませんが、ナチュラルな香りのブルゴーニュワインが好みの方にはお奨めです。
ちなみにこのワイン、木下インターナショナルさんが輸入しています。ポルトガルのワインが得意なインポータさんです。白は比較的、購入しやすいようですが、赤は人気なのか、結構入手しにくいようで、見つけたら買いかと思います。
了