2022年のオーストラリア旅行。前半はタスマニア島観光に続き、後半は、オーストラリアのワイン生産量の50%以上を算出する南オーストラリア州です。州都アデレードに滞在し、初日はアデレードから最も近い産地、アデレードヒルズを中心にワイナリーを訪問しました。
2022年10月末から1週間のオーストラリア旅行、最初の滞在地タスマニアのホバートからアデレードは飛行機で2時間ほどの距離になります。アデレードのある南オーストラリア州は、ワイン好きの身として、最も訪れたかったオーストラリアワインの聖地ともいえる場所です。アデレードは、オーストラリアで5番目に大きな都市ですが、その割には、国際線はあまり飛んでいないようで、日本からの直行便もありません。そこで、最も近いメルボルンから、海岸沿いの陸路をドライブして目指そうとしましたが、メルボルンからの距離は1000kmあります。途中立ち寄りながらのドライブでは2~3日かかるとわかり、1週間の旅行では厳しいと判断し、陸路は断念しました。そこで空路を選び、中継点としてタスマニア観光を挟みましたが、結果的にこの選択はベストだったと思います。ホバートからアデレードへは、2時間ほどのフライトになります。
アデレードは、人口130万人ほどの都市で、レンガ造りの建物も見られ、メルボルンほどではありませんが、比較的近代的なビルも立ち並ぶ街です。緑も多く、オーストラリアの中でも、住みたい・住みやすい街に選ばれる人気の都市のようです。
オーストラリアを代表する南オーストラリア(SA)州には、多くのワイン産地がありますが、最も有名なのがバロッサ・ヴァレー、イーデン・ヴァレー、クレア・ヴァレーを抱えるアデレード周辺の産地です。ここから南東にSAのもうひとつの有名なカベルネ・ソーヴィニヨンで名産地であるクーナワラ(Coonawarra)を中心とする産地がありますが、380km近く離れています。
このアデレードを中心とする産地ですが、その地形から、同じ品種でも異なる特徴のワインを産出することで知られています。ポイントは標高ににあります。上記地図のマウント・ロフティ山脈(Mount Rofty Ranges)に位置する標高350m~900mには、アデレード・ヒルズ、クレア・ヴァレー、イーデン・ヴァレーがあり、バロッサ・ヴァレーやマクラーレン・ヴェールやバロッサ・ヴァレーは、標高が比較的低い産地になります。この標高差が、産出するワインの特徴の違いになっており、前者は、冷涼な気候により、エレガントなワイン、後者は、濃厚で力強いワインを生み出します。
今回のアデレード滞在は、3泊でしたが、フライトスケジュールの関係で夜着・早朝発となったため、実質的な滞在は、丸2日となります。
そこで、1日目をアデレード・ヒルズ、2日目をバロッサ・ヴァレーのワイナリ訪問とすることにしました。思う存分にテースティングができるよう、自身で運転しなくて済むツアーも考えましたが、団体行動が苦手なのと、行きたいワイナリを自分で選びたいという理由から、アテンドしてもらえる現地在住のロコとコンタクトしました。その結果、アデレード・ヒルズまでアテンドしてくれるロコは見つかったのですが、片道1.5Hほどかかるバロッサ・ヴァレー行きについては、ことごとく断られてしましました。
初日は、アデレード在住のロコの方にお願いして、アデレード・ヒルズを中心に幾つかのワイナリー訪問をリクエストとしでプランを立ててもらいました。
↓こんなコースで回りました(数字は車でのおおよその距離になります)。アデレード市内から丸一日で無理なく廻れるれるコースなので、お奨めです!
まず、アデレードからハンドルフ(Hahndorf)に向かいます。
ここは、ワイン産地というより、ドイツ村として観光名所になっています。
ドイツ村らしく、ビールの醸造所やパブがあります。
Hahndorf Hills Winery
最初に訪れたのが、Hahndorf Hills Wineryです。ワイナリーは、名前のとおり街中から少し離れた高台にあります。
ハンドルフはドイツ移民の街と知られていますが、ここハンドルフ・ヒルズ・ワイナリ(HHW)は、オーストリア固有種からのワインに力を入れているちょっと変わったワイナリーです。
オーストラリアでは珍しいグリューナ・フェルトリーナ(Gruner Veltliner)をはじめとするオーストリア系の品種からのワインを造っています。
創設者はオーストリア人ではなく、南アフリカ出身の医師で、後にワイン生産者となったラリー・ジェイコブスという人物で、同じ南アフリカ出身のジャーナリストであったマーク・ドブソンと、オーストラリアに移住して、創立したのがこのワイナリーです。ラリーが旅したオーストリアでグリューナ・フェルトリーナに惚れ込み、この品種がアデレード・ヒルズの気候、日中は温暖で、昼夜の寒暖差(Diurnal Range).が大きい気候が、この品種との相性が良いことに着目してこの地での栽培に取り組んでいます。
グリューナ・フェルトリーナのほかに、ブラウフレンキッシュ、さらにツヴァイゲルト、ザンクト・ラウレントというオーストリア品種栽培しているようです。下記のメニューにあるロゼは、ドイツで主に栽培されているトロリンガーがメインになっているようです。特に力を入れているグリューナ・フェルトリーナは、下のメニューにあるように、レイト・ハーベストを含む4種類の異なるスタイルのワインを作っています。
この日のテースティングは、ピノ・グリ、ブラウフレンキッシュとシラーズを選びましたが、このワイナリの売りであるグリューナ・フェルトリーナは購入し、持ち帰りました。
ピノ・グリは、非常にフレッシュでさわやかさを感じるワインでした。オーストラリアでブラウフレンキッシュというのは、全く予想外でしたが、比較的タンニンは円やかで、果実味溢れるワインでした。正直、個人的には、濃厚なシラーズより好みです。
↓帰国後に飲んだグリューナ・フェルトリーナ(Gru Fruner Veltliner 2022)です。
非常に若い(2022年ヴィンテージ)ということもあり、シルバーがかった非常に淡いレモンイエローの色調です。溌溂として爽やかなワインですが、比較的飲み馴れているオーストリアのグリューナに比べて、アロマティックさが際立っています。ライムやグレープフルーツの柑橘系もありますが、マスカット香やメロン、トロピカルなフルーツが華やかな香り、これまで飲んだグリューナ・ヴェルトリーナとは、ちょっと異なります。後半から、グリューナらしい塩味やホワイトペッパーが感じられ、苦みの余韻に続きます。ちょっと面白いワインです。
https://hahndorfhillwinery.com.au/
Shaw+Smith
次に向かったのが、ショウ・アンド・スミス(Shaw+Smith)です。
アデレード・ヒルズを代表するワイナリーで、日本でもよく知られている生産者です。
1989年にオーストラリア初のMW(マスター・オブ・ワイン)のマイケル・ヒル・スミス氏と従弟で醸造家でもあるマーティン・ショウ氏に設立されており、この2人の名前がそのままワイナリーの名前になっています。
比較的新しいワイナリーだけあって、非常にモダンな建物です。テースティングルームも広々としており、センスの良さを感じさせます。
壁には、こんな言葉が。
”あなたの人生においての飲めるワインは限られている。悪いワインは飲むべからず”
といった意味でしょうか? 良いワインを見抜く力を身に付けなさい、ともとれます。
Len Evans(レン・エバンス)は、オーストラリアワインのレジェンドともいえる人物で、生産者、そして、コラムニストとして、大ストラリアワイン発展の最大の功労者と言われています。
テースティングは、5種類のスタンダードワインです。
Sauvignon Blanc 2022、Reasling 2022、M3 Chardonnay 2021、Pinot Noir 2021、Shiraz 2020です。2022年のワインを2022年の11月に飲むわけですが、南半球なので一応、半年は熟成させています。
白は、非常に若いこともあり、フレッシュで溌溂した酸が印象的です。オーストラリアのシーフードによく合いそうです。
右端がシラーズになりますが、ここのシラーズは、6年前にワイン・エキスパートの勉強をしているときに初めて出会い、それ以来、何回か飲んでいます。非常にエレガントなシラーズで、大のお気に入りです。
オーストラリアのシラーズといえば、バロッサ・ヴァレーが非常に有名ですが、飲み比べてみると、このシラーズとバロッサ・シラーズとの違いがよくわかります。
下記は、家で、Shaw+Smithのシラーズとバロッサ・ヴァレーのPowell&Son Shiraz、Torbreck Woodcutter's Shirazと飲み比べてものです。
↓Shaw+SmithとPowell&Sonです。ヴィンテージが1年違いますが、色合いから濃さの違いが想像できるかと思います。香りもバロッサ・シラーズは、カシスやブラックベリーの完全な黒系果実ですが、Shaw+Smithのシラーズには若干赤系の果実も感じます。味わいもバロッサ・シラーズは濃厚で動物的、アルコールの高さを感じますが、Shaw+Smithは、エレガントでフィネスを感じさせるワインです。
この違いは、気候条件によるもので、アデレード・ヒルズはバロッサ・ヴァレーに比べ昼間で約4℃、夜間で約8℃低くなります。この冷涼な気候が、ワインにエレガンスさを与えます。また、黒胡椒の香り(ロタンドンという物質)が強いのもこの比較的冷涼な地域のシラーズの特徴です。
ワイナリーは、バルハンヌとレンズウッドに55haほどの畑を所有しています。どちらも、アデレード・ヒルズの銘醸畑です。
↓テースティングルームの片隅に見慣れないラベルのワインが。
ラベルには、”The Other Wine Co.”の文字が書かれていますが、これは、Shaw+Smithのカジュワルラインのワインで2015年から買いブドウにより造られているとのこと。
見かけたことがないワインなので、おそらく日本市場には入っていないと思われます。
Cobb’s Hill Estate
次の訪問先、Cobb’s Hill Estateです。
コブス・ファームは、1854年に設立された農場で、当初は、駅馬車を運行している会社だったようです。ブドウの植樹は25年ほど前からで、現在所有している畑は、28haとのこと。
セラードアの周りのテラスにはテーブルが並んでおり、テースティングだけでなく、食事も提供しています。
このワイナリー、醸造はアデレードのレンズウッドにあるPeter Leskeというワインメーカー(Revenir Winery)に委託しているようです。全く聞いたことがありませんが、オーストラリアでは有名なワインメーカとのことで、2020年のオーストラリア最優秀ワインメーカーにも選ばれているようです。広大な畑はありながらも、ワイン産地としての歴史は浅いので、このような形態をとって、セラードアを開設し顧客を集めている小規模ワイナリーも多いようです。このワイナリーでは、メンバーシップ制度を設けて、割引だけでなく、限定ワインを提供等で個人顧客の獲得にも熱心のようです。
テースティングは、カウンターで行いました。
ロゼのスパークリングから白ワイン、ラベルに駅馬車が描かれたスタンダードクラスのシラーズ。シラーズは若いせいもあり紫が強いですが、強烈な濃さではなく、やはり冷涼な地のシラーズを感じさせます。味わいは凝縮感があり、酸やタンニンは甘みに隠れているような円やかさが特徴で、今飲んで美味しいシラーズです。
↓ラベルの文字が少しブレていますが、Cellar Reserve Freeman Shirazというフォーティファイド(酒精強化)ワインです。アルコール度数は18.5度あります。
オーストラリアは、1930年代から1960年代まで酒精強化ワインが7割近くを占めていました。その名残りか、いまでも古くからのワイナリーでは、細々とながら酒精強化ワインを生産しているところが多いようです。
↓価格表です。スタンダードラインで30豪ドル程度と割合と手頃です。先述のメンバー価格が併記されており、メンバーでないと買えないワインもあるようです。
ユニークなのは、一番下にあるソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールのジン。通常はグレーン(穀物)スピリットが原料ですが、ブドウのジンも結構あるようです。白ブドウはともかく黒ブドウからのジンははあまり見たことがありませんでした。後で気が付いたので、製造方法を聞き漏らしましたが、ブドウを発酵・蒸留してボタニカルで香り付けしていると思われます。
このワイナリーでロゼのスパークリングと一緒に昼食をとりました。
↓ゴルゴンゾーラチーズを使ったビザが、美味でした。
Golding Wines
次の訪問先は、レンズウッド内にあるゴールディング・ワインズです。ゴールディング夫妻により創設され、ワインの生産は2002年からと比較的若いワイナリーです。広く美しい庭園、石造りのテースティングルーム&レストランを備えたワイナリーで、オーストラリアのベストセラードアに選ばれたワイナリーであることも訪問理由になっています。
この時期は、まだ肌寒く、オフシーズンということもあり、お客さんはまばらでしたが、ハイシーズンには、パーティとして利用される機会も多い結構人気のセラードアのようです。
石造りのテースティングルームは、モダンながらも暖炉もあり、落ち着いた雰囲気です。
テースティングメニューは、4コースあり、各5種類のワインに洒落たおつまみ付きで15豪ドルとリーズナブルです。
今回は、赤ワイン5種の”Red,Red,Red”というコースを選び、ピノノワール2種(2017&2022年)、シラーズ2種とカベルネ・ソーヴィニヨンのテースティングを行いました。2022年のピノは、流石に若々しく、2017年は少しレンガ色が入っていますが、いずれも明るい色調で、熱量の低い、如何にもクール・クライメイトな産地を感じさせます。前滞在地で飲んでいたタスマニアのピノは、どちらかといえば、甘さを感じるニューワールド的なワインでしたが、それとは全く違います。タスマニアの方が緯度的には南(北半球で言えば北)なので、冷涼なイメージを抱きますが、やはり産地の標高でしょうか?もっともタスマニアのワインも飲んだのは2本だけなので、一概には判断できないと思いますが...。シラーズもやはりエレガントさを感じさせるワインでした。
セラードアで購入したのは、下の2本。シャルドネとシラーズでいずれも42豪ドルでした。アーティスティックなラベルで、ほとんどジャケ買いです。
The Tank
この後、アデレードの帰途につきますが、最後に寄ったのが、
ウライドラ(Uraidla)という町にあるUraidla Hotelです。
一見何の変哲もないブリュワリーをもつノスタルジックな雰囲気のホテルに見えますが、このホテルの地下には、変わったワインセラーがあります。
1900年ころホテルの貯水室として使用されていた巨大な地下タンクを、2018年にその自然に一定した低温と湿度を利用して、改造した”THE TANK”と呼ばれるワインセラーです。
内部はこんな感じで円形状の壁一面にオーストラリアワインを中心ワインがびっしりと保管されています。
中央には円形のテーブルがありますが、ここでテースティングが行なわれているようです。完全予約制で最後に寄る予定の場所だったので、テースティングは断念しましたがセラーの内部を見学させてもらいました。
AUSTRALIAN ICONSのところには、ペンフォールドのグランジやヘンチキのヒル・オブ・グレースといったプレミアムワインが並んでいます。瓶に価格が書かれており、1986年のグランジが3499$、1990年と2004年のグランジは2499$!です。
ちなみ、トイレは、ビール用のタンクを利用したものになっています。
流石に飲みつかれたので、最後はホテルのカフェで、カプチーノで締めです。
実は、Goldings Winesのあるレンズウッドとウライドラの間には、ナチュラルワイン産地として注目されているバスケット・レンジという地区があり、そこを目的地のひとつに予定していたのですが、気軽に訪問できるようなセラードアを見つからず断念しました。もっとも、この辺りの自然派の生産者はあまり商売っ気があるようには見えませんが...
それを差し引いてもなかなか充実したワイナリーツアーでした。
アデレードを訪れる観光客がワイナリー見学として考えるのが、郊外にあるペンフォールドのワイナリーか、少し足を延ばしてバロッサ・ヴァレーを選ぶかと思いますが、比較的気軽に行け、小規模ながらも魅力的なセラードアをもつワイナリーがコンパクトに点在しているアデレード・ヒルズも選択肢にも入れるのもお奨めです。
最後に、車でワイナリー訪問にアテンドしていただいた、アデレード在住のSpringwoodさんに深く感謝したいと思います。
<了>