ブルゴーニュ最大の祭典「栄光の3日間」に合わせて、ブルゴーニュのドメーヌを訪問しました。最初に訪れたのは、プレモー・プリセ村に拠を置くドメーヌ・ラルロ(Domaine L'Arlot)です。今回は、樽熟中の2023年を試飲させてもらいました。
日本でも人気の高いこのドメーヌのワインは、1990年台後半のヴィンテージくらいから結構飲んでいます。この頃から、現在に至るまでに醸造長が4代変わっており、その度にちょっとした話題になっています(ブルゴーニュワインおたくだけの間かもしれませんが...笑)
2006年まではDujacで働いていたジャン・ピエール・ド・スメ氏。その後が、スメ氏の右腕だったオリヴィエ・ルリッシュ氏ですが、2015年にオリヴィエ・ルリッシュ氏は、2010年に南ローヌのアルディッシュに自身のワイナリー「ドメーヌ・デ・ザコル」を設立し、アルロを去ります。その後は、ジャック・ドゥヴォージュ氏が引き継ぎますが、ジャック氏は、後にクロ・ド・タールにヘッドハンティングされ、その後をアレックス・ガンバで働いていたジェラルディンヌ・ゴド女史が引き継ぎ今に至ります。
このように、腕のある醸造長を次々に呼び寄せ、ドメーヌとしての名声を維持し続けているのは、バックに保険会社大手のAXAの投資が背景にあったことは想像できます。
醸造長の変更により、ワインのスタイルは変わってきたことは実感しており、その辺りも、今回の訪問で尋ねてみたい興味でした。
ドメーヌは、ニュイ・サン・ジョルジュ村の南に隣接するプレモー・プリセ村にあり、ドメーヌの建物に隣接して、モノポールのクロ・ド・ラルロ(Clos de l’Arlot)の畑が広がっています。
今回の試飲は、ドメーヌ内のクロ・ド・ラルロの畑が窓から見れるテースティングルームで行われました。
テースティングは、秘書のアナベルさんが対応していただきました。
ドメーヌの所有する畑は、全部で15haで、12haがピノノワール、3haがシャルドネ、栽培方法はビオロジックで一部ビオディナミも取り入れているとのこと。
試飲アイテムは、2023年ヴィンテージの6種。あのグランクリュもあります。
2023年ヴィンテージは、未だ樽で熟成中で、今後瓶詰めし、2025年の春にリリースされます。並んでいるワインは瓶に入っていますが、朝に醸造長のジェラルディンヌさんが樽から移してくれたそうです。
2023年は天候的にはちょっと難しい年で、気候が安定せずに雨と太陽が交互におとずれ、特に7月は、大雨に加えて雹に見舞われたものの、9月にはよく晴れて乾燥した日が続き、結果的にはクオリティも量的にも良かったとのこと。
試飲は、まずは、窓の外に見えるクロ・ド・ラルロの畑のワインから。
クロ・ド・ラルロ(Clos de L'Arlot)の畑からの3アイテムです。
ドメーヌの代名詞のこの畑は、19世紀にオーナーが築いたもので、アルロー(Arlot)は近くを流れる小川の名前に由来しています。
1.Nuit-Saint-Georges 1er Cru Clos de L'Arlot Blanc
石の多い石灰土壌で栽培されたブドウを圧搾した後、木樽に入れて、樽内で発酵、熟成は12ヶ月、うち9ヶ月を樽(新樽比率20%)で熟成後、ステンレスタンクでブレンドして、更に3ヶ月熟成。
青リンゴ、洋ナシの緑色系果実、フレッシュな酸。当然ながら若いですが、凝縮した果実味からは熟成のポテンシャルも十分に想像させる白です。白は、2023年は2.7haから8000本生産されたとのこと。現在はこの畑のみですが、クロ・デ・フォレの上部に白(シャルドネ)を植えており、5年以内にリリースされるとのこと。
2.Nuit-Saint-Georges 1er Cru Mont des Oiseaux
Clos de L'Arlotの若木からのワインです。
クロ・デ・ラルロの上の山に近い高いとことにある窓から見える正面の畑。Mont des Oiseauxは、「鳥の島」の意味。石灰岩の土壌。Clos de L'ArlotのラベルにはMonopoleの表示がありますが、何故かMont des Oiseauxには、ありません。
フレッシュな赤系果実の香り。軽い訳ではないが、樽をあまり感じさせないエレガントなテースト。石灰からのミネラルを感じる余韻。
2015年ジェラルディンヌさんのころからリリーズしている僅か0.8haの畑ですが、生産量が激減した2024年は造られず、樹齢も上がったので2025年が最後のヴィンテージになるとのこと(Clos des L'Arlotに統合されると思われます)。
3.Nuit-Saint-Georges 1er Cru Clos de L'Arlot
前記の写真の下の方の畑です。泥灰土の土壌。石はスカスカでスポンジ状で、古い樹と新しい樹が混在しているようです。
赤系果実、エレガントながら凝縮感も持ち合わせており、ドライフラワーやリコリスの複雑さも。ジェラルディンヌさんの方針で、ピジャージュは行わず、ルモンタージュで柔らかい抽出を行っているとのこと。
ここで、今回、このワイナリで最も知りたかった全房発酵について、聞いてみました。
オリヴィエ・ルリッシュ氏は、全房発酵を積極的に取り入れていたことで知られていました。そのスタイルを含めて、カリスマ的な人気のあった醸造家です。
ただ、2009年や2010年を飲んで、美味しいけれども、「苦み」が結構気になっていました。この苦みについて、当時あまり評論家のコメントでは触れられていませんでしたが、個人的にはちょっと抵抗がありました。
これについては、ルリッシュ氏はいつも茎を入れていたが、ジェラルディンヌ女史は2021年以降は、全房を完全に止めているとのこと。
その後のジャック・ドゥヴォージュ氏のワインには、この苦みは感じなくなりましたが、若干力強さが増したような気がします。最近2012年ヴィンテージの、クロ・フォレ・サンジョルジュを飲みましたが、少し硬いタンニンを感じました。これを伝えたところ、アナベルさんは、2012年は10~15年待った方が良いとのコメントでした。
ジェラルディンヌさんは、タンニンが柔らかく滑らかさを重視し、直ぐ飲めるワインを目指しているとのことで、ヴィンテージの影響もあるかもしれませんが、今回の試飲でも、そのような性格を感じ取ることができました。
4.Vosne-Romanee 1er Cru Les Suchots
ヴォーヌ・ロマネ・スショは、20人近い所有者がいますが、ラルロの所有は、僅か0.1ha、生産量は、4000本(新樽比率40%)です。ここの昔はよく飲んでいましたが、価格も高くなってしまったのでちょっと手が出なくなってしまってしましました。2020年を最後に購入できてていません。最後に購入した2020年は、3万円強でしたが、最新ヴィンテージは、5万円近くになってしまいました。
ニュイ・サンジョルジュが締まった味わいなのに対して、やはりヴォーヌ・ロマネらしい華やかさや輝きが前面に出ているのがこのキュヴェだと思います。アナベルさんのコメントの土の香りはそれほど感じませんでしたが、凝縮した果実味から、熟成すれば、妖艶な香りと至福の味わいが期待できる1本だと思います。
プルミエ・クリュのスショの各所有者の畑の資料はあまり公開されていないので、位置を訪ねたところ下記のマップを見せてくれました。スショの上方でリシュブールに隣接している素晴らしい場所のようです。粘土に石灰が混ざる水はけの良い土壌とのこと。
5.Nuit-Saint-Georges 1er Cru Clos des Forets Saint-George
このドメーヌの看板モノポールのワインです。
ドメーヌ訪問の前に立ち寄りました。コート・ドールの中心を貫く県道(旧国道)D947沿いにあり、大きな看板があります。
面積は、7.2haでドメーヌ所有畑の半分を占めます。生産本数は、2~2.5万本。
写真では平坦に見えますが、緩やかな傾斜があります。
この畑の上部に、前述の白(シャルドネ)が植えられています。
Nuit-Saint-Georges Clos des Forets Saint-George Blancとして今後登場するのか?
少なくとも若木なので、プルミエ・クリュは名乗らないかと思います。
黒系果実の香り、クロ・デ・ラルロに比べ、力強さが感じられ、スパイシーな香り、口に含むと意外になめらかな味わい。単にも前銘柄に比べるとタンニンは豊かですが、しなやかで丸みがあり、柔らかさを感じます。
この銘柄は、ずっと買い続けていますが、ジェラルディンヌさんのワインは初めて飲みました。最後に飲んだのは、今年の8月で、前出の2012年のジャック・ドゥヴォージュ醸造長のクロ・デ・フォレ・サンジョルジュでしたが、それに比べても柔らかさを感じました。
5.Romanée St. Vivant Grand Cru
真打、ロマネ・サンヴィヴァン・グラン・クリュの登場です。
所有面積は0.24ha、生産量は2023年で1200本とのこと。畑は、ロマネ・コンティと道路を挟んで真正面下部にあり、Maison Louis LatourとDomaine Poisotに挟まれた位置にあります。
より複雑で、素晴らしい香り。赤黒系の果実にも増して、フローラルな香り、スミレや菩提樹の花。石灰からのミネラルや燻製香。閉じていて、未だとても飲めないと思って思っていましたが、さもあらず、結構開いているのにはびっくり。少なくとも10年寝かせて、熟成香が出れば桃源郷なワインです。素晴らしい!
高くなってしまい、もう買えそうにないロマネ・サン・ヴィヴァンですが、唯一2013年のみ購入しています。それを伝えたところ、2013年は酸が強い年なので、もう少し待った方が良いとのアドバイスでした。
最後に、ここ数年のヴィンテージのドメーヌとしての評価を聞いてみました。
2020年は、6,7か月雨が降らず、40度まで気温が上がり、非常に暑く果汁の糖度が上がったが、その反面、皮と種は完熟せず。難しい年。
2021年は、雨ばかりで冷涼だがブルゴーニュらしいワイン
2022年は、その中間、太陽はよくあたった。暑苦しくなくフレッシュさを残している。
2023年は、良いヴィンテージ。早くから飲める。
そして、2024年について、聞いてみたところ、通常240樽造られるところが、今年は6分の1の40樽とのこと。収量削減の大きな理由がカビ病であることから、ビオかビオでないかも影響しているようです。気になる価格については、ドメーヌとしては、上げない方針とのこと(当然ながら輸出先の都合もあるので流通価格が上がらないかは不透明です)
試飲が終了し、セラーを見学させてもらいました。
↓何故かクロ・ド・ラルロ2006年のハーフボトルが大量に保管されていました。
熟成状態を確認する目的のようです。
今回、このドメーヌを訪れたかったのは、長年の飲んできたワインへの愛着もあり、現醸造長によるラルロのワインをより一層知りたかったという思いからです。
全房の縛りから解放されてというのちょっと言い過ぎですが、ピュアで優しく、何年も寝かせなくても、美味しく飲めるという方向性を感じることができました。
ご多分に漏れず。価格が高くなってしまったのは、ちょっと残念ですが、じっくりと食事と愉しみたいワインだと思います。
ドメーヌ訪問後、近くにあるレストランで昼食をとりました。
PREMNORDというレストランですが、ここは、ドメーヌ・プリューレ・ロックが経営しているレストランです。
中に入ると、巨大なセラーが。当然ながら、プリューレ・ロックのワインがずらりと並んでいます。
内部は、テーブルの間隔が広く、高級レストランの雰囲気です。
ランチのコースを頼みましたが、価格的には、意外とリーズナブルでした。
折角なので、ドメーヌ・プリューレ・ロックのワインをと思いますが、直営レストランと言え、さすがに目が点になる価格なので、手頃(とはいえ100€越え)な、2019年のLadoixをオーダーしました。
ドメーヌ・アンリ・フレデリック・ロックを最後に飲んだのは、3年ほど前の2005年のヴォーヌ・ロマネ・スショです。
数年前から価格高騰してからは、初めてのロックでしたが、ちょっと驚きました。もともとビオディナミだったのですが、ちょっと揮発性の酸があります。アンリ・フレデリック・ロックさんが2018年に亡くなった後のヴィンテージですが、よりナチュラルな方向に振ったように思います。個人的な好みからは、ちょっとという感想です。
まあ、高くなってしまい、もう買えそうにもありませんが...
ちなみに最後に購入したプリューレ・ロックは、同じLadoixの2015年です。
ニュイ・サンジョルジュのフォーマルなレストランは、初めてですが、ここは絶対お奨めだと思います。ワインリストには膨大なワインが並んでいて、迷うのは、間違いないとは思いますが...
了
思い起こせば1990年代に初めてド・ラルロの瑞々しくも淡く、しかしエキスの美しさに驚いたことを思い出します。ドメーヌ・デュジャックのジャック・セイスの弟子ジャン=ピエール・ド・スメから始まったドメーヌ・ド・ラルロは、オリヴィエ・ルリッシュ、ジャック・ドゥヴォージュ、そして現在のジェラルディンヌ・ゴドーと引き継がれていきました。
クロ・ド・タールの醸造責任者にヘッドハントされたジャック・ドゥヴォージュ氏から2015年よりその任を受け継いだ女性 ...
ジャン・ピエール・ド・スメ氏が2006年末で引退し、ス メ氏の右腕だったオリヴィエ・ルリッシュ氏が栽培・醸造最高責任者
2010年、誰もが羨むドメーヌ・ド・ラルロの醸造責任者の地位を捨て、氏がドメーヌを去るというニュースに驚きを隠せませんでした。
その後、代替わりがありましたが、個人的にはオリヴィエ氏の手掛けた時代のラルロが、今でも一番好きです!
そんなオリヴィエ氏が、名誉ある地位を捨て選んだのは、妻のフロランスと共に営む、自身のワイナリー《ドメーヌ・デ・ザコル》でのワイン造りでした。