ブルゴーニュ最大の祭典「栄光の3日間」に合わせて、ブルゴーニュのドメーヌを訪問しました。ラルロ、トロ・ボーに次いで、3軒目の訪問先は、ヴォルネイ村のドメーヌ・グラントネイです。昨年、初めてここのワインを知り、それ以来、大ファンになりました。今回、念願が叶い、ドメーヌを訪問することができました。
ドメーヌ・グラントネイはヴォルネイで17 世紀から続く家族経営のドメーヌで、1950年代後半から現当主ティエリーの祖父が元詰めを始めています。その後、その息子のベルナールがドメーヌを引継ぎ、2005年にベルナールの引退に伴い、ティエリーがドメーヌが当主になっています。ちなみにラベルに表記されているドメーヌの正式名は、Bernard et Thierry Glantenayです。ティエリーがドメーヌの全てを掌握した2005年からワインの品質は飛躍的に高まり、その後、多くの英米の評論家により高い評価を得て、ドメーヌの名声は高まりました。
ここのワインは、ビーズ・ルロワが最近まで買い付けて、メゾン・ルロワとして販売していたことが知られています。他にドミニク・ローランにも卸していたようです。
(実は、このあたりも聞きたかったのですが、失念しました)
このドメーヌは、数年前から気にはしていましたが、なかなか購入するには至らず、昨年、初めてヴォルネイの村名Volnay Vieille Vigneの2018年ヴィンテージを飲みました。当時は同じヴォルネイ村のマルキ・ダンジェルヴィルのワインに嵌っていた時期でもあり、ダンジュヴィルのプルミエ・クリュのワインとも印象が重なるピュア―な果実味が感じられる外向的かつエレガントなヴォルネイにインパクトを受けました。
それ以来、追いかけていますが、少ない生産量と最近の人気から、即売り切れてしまい、なかなか購入することができませんでした。
この日のは、前の訪問先のショレ―・ボーヌ村のトロ・ボーのドメーヌでの滞在が長くなってしまい、ドメーヌ・グラントネイの訪問は30分以上遅れてしまいましたが、当主のティエリーさんが暖かく迎えてくれました。
こじんまりとしたワイナリ内部にはにステンレスタンク、コンクリートタンク?、バリックや瓶詰め機やラベルを貼る為の機械等が並んでいます。
ドメーヌの建物は、小高い丘を登った途中にあり、カーヴは地上階とは言え、山の中に埋まっているため、地下カーヴと同じ環境のようです。
畑は、ヴォルネイ(村名と4つのプルミエ・クリュ)とポマール(村名と2つのプルミエ・クリュ)に合わせて約7haとピュイニー・モンラッシェ・プルミエ・クリュの僅かな区画を所有しています。
日本ではなかなか手に入りにくいことを伝えたところ、ドメーヌ全体で年2~2.5万本の生産量で日本へは、年間500~600本(インポーターはVIVID)とのこと。
栽培について
ワインは、ほとんどビオに近いが完全なビオではない(認証には100%ビオであることが必要)。2024年のように雨が多い年には、少し化学的なものも必要。(完全な)ビオでやっている年もある。
畑の土を潰したくないので、夏に先端部分を切るのを全てトラクターを使わず、手で行っている。
醸造について
手摘みしたブドウをステンレスタンクとコンクリートタンクで温度調節せずに自然酵母で自然な状態で発酵させる。アルコール発酵が終わってプレスして樽に入れたところ(2024年)新樽比率は最大で25%。ブルゴーニュ(レジョナル)は1年、プルミエ・クリュで18ヶ月樽熟成。
全房発酵は、年や畑によるが、2023、2024年は行っていない。茎の熟し具合を見て、やるとしても半分。
試飲は、作業場の一角で行われました。2023年ヴィンテージは、瓶詰め前なので、当日小瓶に樽から抽出してくれたようです。
ちなみに、2023年に瓶詰めは、村名が来年1月、プルミエ・クリュが3~4月に予定しているこのこと。
試飲は、7種類。ブルゴーニュレジョナルを除く全ての銘柄でした。
以降、試飲した各ワインについて書きたいと思いますが、時間も押していたので、少し慌ただしく、各ワインの写真は撮り忘れたので、各ワインのラベルを掲載します。
まずは、ヴォルネイから。
[2023] Volnay Vieille Vigne
ヴォルネイの村名は5区画所有しており、殆どの畑がヴィエイユ・ヴィーニュ。
↓下のラベルは、少し古いものを引用しています。最近のラベルには、Vieille Vigneの文字が入っています。
初めて飲んだ2018年同様、ピュアな果実が感じられ、滑らかなテクスチャ、甘すぎず、酸も適度にあります。やはり村名でも十分に美味しい。
村名だけを比較するとマルキ・ダンジュールヴィルよりもコスパは高いと思います。
2023年は夏の天候は良かったが、収穫前に少し雨が降り心配したが、結果的には凝縮感があり、量もしっかり採れたとのこと。
ちなみに、2024年の生産量は、約半分(50%減)で、2021年と同じレベルだが、2021年よりは質が良く、結構満足しているという印象でした。暑い年で、アルコール度数は高くなったが、このような年のワインは、年と共にその性質が減っていくとのこと。
[2023] Volnay 1er Cru Les Brouillards
ブルイヤールは、レ・ポマールに隣接した畑。
ドメーヌが所有するプルミエ・クリュとしては、最も生産本数が多いようです(1haの畑から年間4000~5000本)
村名の延長線上にある印象で、赤系果実のピュアでふんわりした香りや味わいは同様ですが、僅かに果実の凝縮度があがっている印象ですが、酸とのバランスは良く取れています。
[2023] Volnay 1er Cru Les Santenots
サントノ・プルミエ・クリュは、ムルソー寄り(場所的にはムルソー村)の畑です。
谷があり、前出のブルイヤールが粘土質中心なのに対して、こちらは小石がたまっている石灰質土壌の畑とのこと。樹齢は30年。
前出の村名やブルイヤールとは、異なる香りが特徴的。石灰からのキュッと締まったミネラル。果実の熟度は高いが、ふんわりした感じではなく、エネルギーの強さを感じる味わい。後味にも石をなめるようなミネラルを感じる。
このワインは、ティエリー本人も気に入っているようで、締まっているがフレッシュ感もあり、タンニンとのバランスが良いとのこと。
[2023] Pommard 1er Cru Les Saussilles
ポマールの北側、ボーヌ村のクロ・デ・ムーシュに隣接している畑です。
このワインは硫黄や火打ち石の還元香が出ていました。
ポマールは、ヴォルネイよりも男性的(力強い)と知られていますが、この畑は、ボーヌに近いこともあってか、香り・味わいともに繊細な感じです。決して筋肉質でなく、優しく、ソフトなテクスチャー。後味には少し塩気(ミネラル)が感じられます。
何故このワインだけ還元しているのかについては、ティエリーさん自身も説明がつかない(解がハッキリしていない)とのことでしたが、第二次発酵が遅かったことも影響しているかもとのこと。還元香は発酵の時に出る香りで、樽に入っているワインは還元傾向にあります。瓶詰め前に澱を下に残して中身を出すときに空気に触れるので、通常はここで還元香は消えるが、稀に残るようです。いずれにせよ、酸化とは異なり、空気に触れれば消えるので問題ありません。
ちなみに、最も樹齢が高い畑が、1922年に植えた(樹齢102年)この畑のようです。
ドメーヌがポマールに所有する畑は、村名2区画、プルミエ・クリュ2区画ということだったので、なぜポマールの村名ワインが存在しないのかたずねたところ、村名の畑のブドウは(植替えの為)全部引っこ抜いており、昨年植えようとしたところ、土がぬかるんでおり、畑に入ることができなかった。2025年に植える予定なので、リリースは少なくとも4年後になるとのことでした。
[2023] Volnay 1er Cru Les Caillerets
ヴォルネイの銘醸畑、カイユレです。最高のテロワールで、ヴォルネイにグランクリュとつくるとすればココと言っていました。ここのカイユレは見かけたことありませんでしたが、小さい区画で通常2樽のみ、日本には僅か12本!、今年は1樽だけだったとのこと。樹齢は約60年。
意外にも開いており、赤黒果実の心地よい香り。味わいはグッと深みが増し、熟度の高さを感じます。果実味と酸とタンニンのバランスはこのワインも同様で、長い余韻が加わります。ここの土壌の良さが余韻の長さにつながっているとの説明でした。
すごく美味しいけど、日本で飲む機会は多分無いでしょう笑。
[2023] Pommard 1er Cru Les Regiens
ポマール最高の畑、リュジュアンです。前述のヴォルネイ・カイユレ同様、このワインの存在も知りませんでした。樹齢は約80年!
香りは少し閉じていますが、口の中に広がる香りと余韻の長さが秀逸。力強いが繊細さも持ち合わせており、味わいは滑らか。これも素晴らしい!
毎年毎年気候が違うので多少味は変わてくるが、ここの畑はこういう味というのはテロワールを反映しており、変わらないとのこと。これは、やはり生産者からならでは聞けるコメントかと思います。
レ・リュジュアンは、レ・ゼプノと共にグラン・クリュの申請を10年前から出しているようですが、今年は少し良い動きがあり、グラン・クリュに申請するためには収量を落とすように指示があったようです。もっとも2024年は天候のせいで自ずと収量減になったようです。いずれにせよ、グランクリュに認められるのは、まだまだ先のようです。
[2023] Volnay 1er Cru Clos des Chenes
こちらもヴォルネイで非常に評価の高い畑で、ミシェル・ラファルジュ等で有名です。
生産量は5~6樽(1500~2000本)
↓昨年訪れた、クロ・デ・シェーヌの畑です。
ヴォルネイ村の南側、少し高台にあります。
こちらも前出のポマール・リュジアン同様に香りは閉じていますが、滑らかな味わいの奥に深みを感じます。余韻も長く、今飲んでも美味しいですが、香りが開いたら素晴らしいワインになることは間違いないと思います。
ポマール・リュジアンとともに長熟タイプのワインです。
こちらは頑張れば、日本でもなんとか買えるワインです。
赤の最後に、2022年のヴォルネイ・プルミエ・クリュ・ブルイヤールを開けてくれました。
深いルビー色、アルコールとタンニン、酸のバランスが良く、ビードロのように滑らかな口当たりで、ティエリーさん自身も気に入っているヴィンテージのようです。
ティエリーさんが、一番気を付けているのがタンニンとのことで、軽すぎず、重すぎずバランスが重要と強調したのが印象的でした。
[2023] Puligny Montrachet 1er Cru les Folantieres
最後は、ドメーヌ唯一の白、ピュイニー・モンラッシェのプルミエ・クリュ、レ・フォラティエールです。こちらも最近は日本では見かけません。生産量は聞けませんでしたが、かなり少ないものと思われます。
暑い年だったようですが、ピュイニ―らしいキリっとした綺麗な酸が感じられます。
熟度の高さを感じる果実味と、素晴らしい後味。
試飲の終わりは、結局18時近くなり、ボーヌに住む娘さんの送り迎えがあるとのことで、ワインの購入に関しては、後に希望を伝えて、翌日に取りに行くことになりました。流石に生産量の少ないカイユレやピュイニー・モンラッシェ、ポマールのプルミエ・クリュは購入できませんでしたが、ヴォルネイのプルミエ・クリュを購入しました。トロ・ボー同様、とても良心的な価格でした。
翌朝、購入したワインを取りに再度ドメーヌを訪れました。
前日ドメーヌを訪れた時は、既に暗くなっており、気が付かなかったのですが、高台にあるドメーヌからは、畑とヴォルネイの街が眺められました。ドメーヌの前の畑は、マルキ・ダンジェルヴィルで有名なクロ・デ・デュックのようです。
条件が良ければ、遠くにモンブランも見れるようです。
最後に記念撮影にも気さくに応じてくれました。
訪問が遅くなってしまったにもかかわらず、快く迎えてくれ、試飲では、分かり易く、丁寧に説明していただき、非常に有意義な時間でした。
ティエリーさんのテロワールに対する知見と凄く的確なテースティングコメントには、通訳していただいた花田さんも驚いていました。小さなドメーヌながらも、多くの評論家に支持され、ライジングスターに昇りつめた理由が理解できたような気がします。
ティエリーさんの人柄を含めて、ますますこのドメーヌのワインに愛着が湧きましたが、生産量と人気の故、日本ではリリースと同時に瞬売してしまうのが、残念です。
最後に、栄光の3日間のアテンドにつづき、今回のドメーヌ訪問の調整から当日のアテンド・通訳まで、手厚いサポートをしていただいたボーヌ在住の花田砂丘子さんに心より感謝申し上げます。
了