5月28日、今回のブルゴーニュ・ドメーヌ訪問の2日目です。最初に訪れたのは、サヴィニー・レ・ボーヌ村のシモン・ビーズ(Simon Bize)です。かつて、ヴィニュロンの妻として紹介された日本人のビーズ・千砂さんが、亡き夫の後を継ぎ、ビオディナミ農法を取り入れ、よりピュアなワインへと変革を図っています。
ドメーヌは、サヴィニー・レ・ボーヌ村のほぼ中央にあります。

ドメーヌの近くに、2020年にオープンした親族が経営する「ル・ソレイユ(Le Soleil)」というオーベルジュがあります。

1階が、シモン・ビーズのワインや様々なナチュラルワインが料理と楽しめることで、地元でも人気のカジュアルなレストランのようです。さらに2階は宿泊施設になっています。
また、近くには、サヴィニー城が運営する航空博物館があります。屋外に本物の航空機が多数展示されています。
入場しませんでしたが、近くのレストスペースから眺めることができました。森の中の展示場といった感じです。

シモン・ビーズの歴史
1880年代、初代シモン・ビーズがサヴィニー・レ・ボーヌで小さな畑を耕してスタートしたのが始まりになります。
1950年、孫の3代目シモンが継承し、当時、ブルゴーニュでは珍しい元詰めを導入し、ドメーヌとしても一歩を歩みだし、この時期にサヴィニーの隠れた名手として評価が確立されます。
1972年に4代目のパトリックが当主になり、畑の拡大を行うともに、名声を確立していき、1998年当時収穫を手伝いにドメーヌを訪れていた日本人の千砂さんと結婚します。
千砂さんは国際的な販路拡大に貢献し、特に日本での知名度アップにつながります。
2013年にパトリックが61歳で急逝し、千砂ビーズさんと、パトリックの妹で、ジャン・グリヴォー家のマリエル・グリヴォーがドメーヌの運営を継承します。
現在は、ビーズ千砂さんの息子のユーゴがドメーヌに参加し、実質実務を取り仕切っています。
千砂さんは、パトリックの生前からビオディナミに熱心に取り組み、よりピュアでナチュラルなワインへの転換をはかっていきます。
ドメーヌに在りし日の、パトリック・ビーズさんの写真が掲げられていました。
↓赤いちゃんちゃんこを着ています。還暦のお祝いでしょうか?手前には、若き日のパトリックと千砂さんの写真も。

↓息子のユーゴ君と。いい写真です。

↓毎年の収穫の集合写真も飾られていました。

2015年にNHKで「ヴィニュロンの妻 日本人マダムと名門ドメーヌ再起の闘い」というドキュメンタリーが放送されました。
夫のパトリックさんが急死して間もない時期の千砂さんの苦悩と葛藤を収穫から醸造を家族とともに描いた作品で、ラストの収穫を終わったサヴィニーの畑で千砂さんがワインを飲みながら亡き夫に報告する場面が非常に印象的でした。
ドメーヌのこだわり
テースティングは、ウクライナ、スウェーデン、デンマーク、クロアチア、カナダのお客さんと一緒でした。主に買い付け担当の方々のようです。
テースティング中に質問に答える形で、千砂さんからドメーヌのワイン造りのこだわりについて聞くことができました。
SO₂の添加について
「SO₂無添加のワインを最初に造ったのは2015年から(注:試験的に始めた年と思われます。完全無添加のワインは2017年からリリースされています)。最初は不安があったが、今ではすっかり慣れたとのこと。白ワインに関しては、醸造過程の全てでSO₂無添加。ワインによっては、安定化させるために軟化剤を入れることもあるとのこと。時々ワインが非常に不安定になることもあり、良い時もあれば、突然質が落ちることもあるが、2年後にまた持ち直したり、難しいこともあるので、少量のSO₂を加えると非常に安定する。」
完全無添加のワインは、AKAやSHIROなど日本語の名前がついたシリーズですが、通常のキュヴェもSO₂は瓶詰め前に少量だけ加えるという方針のようです。
畑の生物多様性を重視
「被覆作物(カバークロップ)を至る所に植えており、それが湿度と水分を調整してくれる。今のように暑い時期には、被覆作物が非常に重要。ただ、どんな被覆作物でも良いというわけではない。質の良い被覆作物で、複数の良い組み合わせが必要。単一のものだと木質化してしまい、(水分を)吸い上げてしまい良くない。」
動物を飼っているところもある。虫もたくさんいる。要は生物多様性が重要という考えです。
ビオディナミについて
「テロワールを重視して、肥料は使っていない。自然が与えてくれるものだから。肥料なしでも2023年は、最大限の収穫を得ることができた。自分たちにとって肥料をえげることはナンセンス。なぜなら、春の初めからすべてが早く、大量に成長するので、迅速に仕事をしなければならないが、(肥料をあげないことで)ゆっくりと成長が進むので、新しい枝を綺麗にする時間がとれる。こうすることで、ブドウの樹は病気対する感受性が低くなり、病気にかかりにくくなる。だから病気予防に農薬を散布する必要がなく、全てが上手くいく。自然が与えられる収穫量を尊重する。それだけです。収穫量は、平均30~35hL/haに抑えている。だからこそ、ワインの風味が非常に凝縮されている。
ビオディナミに関しては、認証は取っているが、認証ラベルは貼っていない。商売上、必要ないと思っている。
硫黄や銅さえ乱用しない。その替わりに、ハーブベースの白い製品を散布している。ティザン(注:ハーブを煮出した液体のこと)とビオコナート(微生物活性剤)です。乾燥したものではなく、新鮮な野生植物を使うようにしています。新鮮なものには、沢山のエネルギーや良い成分が含まれているからです。収穫の時期は、オーキッド(蘭)やネイル(イラクサ?)などを使用します。それは、自分たちで収穫し造っているので、費用はかかりません。」
ちなみに、先に述べたNHKのドキュメントでは、このビオディナミについても触れていました。
もともとビオディナミの導入をパトリックに提案したのは千砂さんで、当時はパトリックは、それほど熱心ではなかったようです。最初に適用したのが、当時弱っていたセルパンティエール(Les Serpentières)の畑で、上述のドキュメンタリー中では、千砂さんがこの畑にビオディナミ液を散布している場面を記憶しています。
今は、全ての畑でビオディナミ農法を適用しているようです。
↓セルパンティエールの畑。緩い斜面の広い畑です。

ピジャージュについて
赤ワインの発酵中に攪拌する作業ですが、最近は、ルモンタージュ(タンク下部の果汁を汲み上げ、果帽の上からかけ流す作業)を行っている生産者が多数になっているようです。しかし、ドメーヌでは今もピジャージュ(果帽を下に押し込む作業)を行っています。
前述のNHKのドキュメンタリーの中で、タンクの中に人が入り、足で踏みつぶす光景をみましたが、何と今もそれを行っているとのことでした。
「18年までは、何度もピジャージュを行ったが、(ワインは)非常に重いものだった。瓶詰めした直後に、ああ、重すぎて好みでないと感じた。今はスタイルが変わった。ブドウは充分熟しているのだから、(強い)抽出は必要ないと考えた。2022年はピジャージュを2回行っただけ。本当にエレガントで繊細な構造になった。」
ルモンタージュに切り替える訳でなく、ピジャージュの回数を減らすことで、過度の抽出を避け、ワインをエレガントなスタイルの変えたようです。
スウェーデンの方からも、「昔(90年代?)の方が骨格がしっかりしていてタンニンが強かった。最近は柔らかくなった」というコメントがありました。
収穫について
「2020年は、とても乾燥した気候だった。2022年も暑かったが、太陽が照り付けて果実が乾燥してしまうようなことはなかった。2021年ヴィンテージ以降はとても満足している。
2020年は、午後に収穫を行った生産者によっては、アルコール度数はかなり高くなった。暑い時は、午前中に作業をすべきで、午前中であれば、たとえ暑いヴィンテージであっても、ブドウは朝の湿気を含んで、とても美味しい。しかし午後になると、全てが萎んでしまう。」
「収穫箱でブドウが潰れることを恐れる生産者もいるが、自分たちはそれを恐れない。ブドウは少し潰れてしまっている方が良いくらい。ブドウ自体の重みで潰れるわけで、この果汁をすぐに冷やし、良いものを選別して、良い果汁だけをタンクに戻す。こうすれば、ブドウは新鮮のままになる」
植替えについて
「(プルミエ・クリュの所有畑のひとつの)Aux Gettesについては2021年に全部引っこ抜いた(注:確かに最近このキュヴェは見かけなくなりました)1960年代に植えたもので、疲弊したのが理由。疲弊してくると窒素レベルが低くなる。窒素不足とエネルギー不足です(注:ブドウが窒素を吸収しにくくなるということだと思います)。その様な畑は、植え替えプログラムに入っています。
最初の年にアルファルファを植えた。アルファルファは呼吸に適した植物だから。毎年毎年違う草を植えて数年間休ませた後に、そこから4,5年で土を耕し、再びエネルギーを与え、そして水を撒く、それにはかなりの費用が掛かる。
大きな損失だが、全ては息子のために👍
↓訪問前にサヴィニー・レ・ボーヌの畑を歩きました。オー・ゲットは、左岸(ペルナン・ヴェルジェレス側)の斜面上部にある畑で、最上部は、森と接しています。

↓ドメーヌが所有する区画がわかりませんでしたが、セルパンティエールと道路を挟んで向かい側に植え替えられた直後の区画があったので、ここかも知れません(確かではありません)

テースティング
↓テースティングアイテムは、全部で7種類。

白
2023 Bourgogne Les Chanplains
2022 Savigny-Les-Beaune Aux Vergelesses
赤
2022 BourgogneLes Perrieres
2022 Savigny-Les-Beaune Aux Grand Liards
2022 Savigny-Les-Beaune Les Fourneaux
2022 Savigny-Les-Beaune Les Marconnets
2022 Savigny-Les-Beaune Aux Vergelesses
昔はよく飲んだシモン・ビーズですが、最近のヴィンテージのプルミエ・クリュはあまり飲んでいません。理由は、価格が結構上がった(ただ他のブルゴーニュに比べると、まだ良心的です)ことと(2021年を除くと)暑い年が続いたので、濃厚なワインになっているのではないかという懸念からです。今回は、赤は、暑かった年の2022年が中心だったので、最近のシモンビーズのワインがどのように変わっているのかを知る良い機会になりました。
まず、白について。
2023 Bourgogne Les Chanplains
Les Chanplainsは、サヴィニー・レ・ボーヌ村の南側、ボーヌに近い村名格の畑です。
基本的には、村名格ですが、村名を名乗れないのは、区画の一部にBourgogneAOCとなる区画が含まれているためと思われます。
赤のレジョナル(Les Perrieres)は良く飲んでいましたが、この白のレジョナルは、飲んだ記憶がありません。
2023年ですが、2日前に開けたとのことで、香りは良く開いており、レモン、青リンゴのアロマ、フレッシュな酸と丸みのある果実味、ほんのりミネラル。エレガントなワインです。
2022 Savigny-Les-Beaune Aux Vergelesses
この白も初めて飲みました。
レモンやライムの柑橘果実、青リンゴや洋梨、白い花にちょっとスモーキーな香りが加わります。味わいは、シャープな酸とミネラル、ふくよかというより少し骨格感を感じる味わい。
スモーキーな香りは、オーク由来のものかと思いましたが、千砂さんによると、新樽については5%未満で、おそらくこの香り、還元香なのではないかというコメントでした。
新樽率を含めて醸造方法は全く同じだが、前述のLes Chanplainsは、酸化傾向、Aux Vergelessesについては還元傾向になるとのこと。還元タイプの畑のワインについては、SO₂はできるだけ使わない方向で、酸化タイプのものについては、SO₂を少し使う方向で考えているとのこと。
品種でも醸造方法でもなく、畑によって、酸化傾向/還元傾向が出るというのを初めて知りました。
赤は全て2022年です。
2022 BourgogneLes Perrieres
2022 Savigny-Les-Beaune Aux Grand Liards
2022 Savigny-Les-Beaune Les Fourneaux
2022 Savigny-Les-Beaune Les Marconnets
2022 Savigny-Les-Beaune Aux Vergelesses
いずれも2日前に開けたとのことでプルミエクリュを含めて、香りは良く開いています。
キュヴェの細かな比較はあまり記憶に残っていませんが、いずれのキュベも、ラズベリーやレッドチェリーの赤系果実の心地よいアロマ、オーク由来のリコリス、クローブ。僅かな土っぽさ、味わいは引き締まった酸のアタック、豊かだか濃すぎない果実味、滑らかなタンニン。暑い年ですが、過熟感はなく、村名からプルミエクリュまで相変わらずエレガントでフルーティなサヴィニー・レ・ボーヌです。流石にプルミエクリュは複雑さと深みが加わります。
↓興味のあったオー・ヴェルジェレス(Aux Vergelesses)とレ・マルコネ(Les Marconnets)については、比較してみました。

大きな差は判りませんでしたが、心持ち、豊かな果実味は、マルコネの方に分があると感じました。
サヴィニー・レ・ボーヌのプルミエ・クリュでは、オー・ヴェルジェレスが最も評価が高く、格上かと思っていましたが、年によって評価は変わるとのこと。
千砂さんによると、最も美味しいと感じたのは、2018年がヴェルジュレス、2022年はマルコネ、2023年はフルノーとのこと。個人的にも、2017年は、タルメットが一番と思い、何本か買いだめていました。
↓タルメット(上)とヴェルジュレス(下)の畑です。隣接する畑ですが、向きが異なるため、日照量の違いが出るようです。土壌もタルメットは白い石灰質が多く、オー・ヴェルジュレスレスは粘土質に石灰質が混ざる土壌です。

ヴェルジュレスの畑は、アロース・コルトン側を向いています。右に見える丘は、有名なコルトンの丘です。
この畑は、3つの区画を有しており、ブレンドしているとのこと。

↓ドメーヌが所有するサヴィニー・レ・ボーヌのプルミエ・クリュ(赤下線)。赤丸は推定される区画位置(サイズ・形状は示していません。あくまで推定なので、誤っているかもしれません)

余談~コルトン・シャルルマーニュの畑・買いブドウによるキュヴェ
今回は、テースティングしていませんが、グラン・クリュについて聞いてみました。
グラン・クリュは、コルトン・シャルル・マーニュとラトリシエール・シャンベルタンの2つですが、いずれも所有畑ではなく、フェルマージュ(土地や畑を借りて農業を行う契約)による畑です。ラトリシエール・シャンベルタンは、以前飲んでいますが、コルトン・シャルルマーニュは、最近2022年を入手したので、興味がありました。
↓コルトン・シャルルマーニュのドメーヌが管理している区画は、このコルトンの丘の上部南側にある十字架の先の丘にありますが、畑は、ジョルジュ・ルーミエの所有畑と隣り合わせています(フェルマージュの貸主はルーミエのようです)。地理的な問題もあり、ジョルジュ・ルーミエの畑をシモン・ビーズが管理し、ラトリシエール・シャンベルタンの畑をルーミエが管理するということを行っていたようです。このことを尋ねたところ、現在は行っていないとのこと。理由は、どうも、ビオディナミ農法による考え方の違いのようです。


数日前に訪れたボーヌで古酒を扱うワインショップ「Prestige Cellar」で、シモン・ビーズの”Puligny Montrachet 1er Cru La Garenne”の2005年ヴィンテージを見かけました。これについて聞いたところ、2004年~2006年のみ、買いブドウで造ったとのことでした。超レアものかと。

2017年からリリーズしている日本語シリーズ(AKA/AO/SORA/AKACHAN)については、SORA(従業員が所有している畑のブドウから)以外は、自社畑とのこと。
2024年は瓶詰め前のようで、試飲はきませんでしたが、生産量はマイナス70%!とのこと。
2025年も生産量は少なかったようです。
輸出の関しては、ヨーロッパが増えているので、日本を含め他の地域への輸出量は、減っているとのこと。
1時間強の訪問でしたが、栽培から醸造まで、今のシモン・ビーズのワイン造りのポリシーに関わる興味深い話を聞け、非常に有意義な訪問でした。
特にビオディナミへの取り組みを含めて、ピュアでエレガントなワインを目指す所とするビーズ千砂さんの真摯な姿に感銘を受けました。
かつて、「ビニュロンの妻」として紹介された日本人女性は、「ブルゴーニュにおけるビオディナミの先導者」となっているようです。
了

コメント