ヴェルジッソン岩山の麓に佇む~ドメーヌ・カレット訪問

今年5月のブルゴーニュワイナリー訪問、3日間の最後は、プイィ・フュイッセのヴェルジッソン村に拠を構えるドメーヌ・カレットです。夫婦で営む典型的な小規模家族経営のドメーヌで、日本での知名度は必ずしも高いとは言えませんが、ピュアで透明感のあるハイ・コストパフォーマンスのワインとして国際的にも高い評価を受けています。

目次

ブルゴーニュ南部のマコネ地区に位置するプイィ・フュイッセは、4つの村、ヴェルジッソン(Vergisson)、ソリュトレ・プイィ(Solutré-Pouilly)、フュイッセ(Fuissé)、シャントレ(Chaintré)の4つの村から成ります。
プイィ・フュイッセは、初めてブルゴーニュのAOCが制定された1936年にマコネ地区として唯一AOCに認定されています。そして、大きな出来事が、2020年の22の1級畑(Premier Cru)の誕生です。
プイィ・フュッセのプルミエ・クリュの昇格は、2020年9月22日にフランスの官報に掲載され、INAOに承認されていますが、今回の昇格の基準となったのは、特に、土壌・標高と畑の向きだったようです。土壌については、石灰岩を多く含む土壌というのが基準になっています。下の地図では少し分かりにくいですが。赤で囲われたプルミエ・クリュの土壌は、オレンジ色の区画で、「深部に非常に石灰質な泥灰岩層を伴う、石灰岩層由来の土壌」や「泥灰土状に形成された斜面の石灰質土壌」といった石灰質土壌が主体です。畑の向きに関しては、北向きの畑等が除外されています。ダニエル・バローの有名なフラッグシップであるヴェルジッソンの”アン・ビュラン(En Buland)”が、昇格を逃したのもこの理由とされています。標高に関しては、400mを超えるような畑は除外されているようです。例えば、ヴェルジッソンのル・オー・ド・ロッシュ(Le Haut de la Roche)は、ロッシュとほぼ同じ土壌で南東向きであるにも関わらず、この理由で昇格対象から外されたようです。

ちなみに、プルミエ・クリュに制定された翌年のソムリエ協会のエクセレンスの試験にこのイベントに関わる問題が出題されています。
・プイィ・フュイッセの4つの村を原語で書け
・ヴェルジッソン村で、プルミエ・クリュに制定された畑を全て原語で書け
(正解は、En France/Maréchaude/Les Crays/Sur La Roche)
といった問題だったと思います。
プイィ・フュイッセには、象徴的な2つの大きな岩山があります。
→今回訪れたヴェルジッソンの岩山です。

↓ヴェルジッソンから観るソルトレの岩山です。

ここヴェルジッソンは、3年前にも訪れています。当時は、ボーヌからドライブがてらに訪れており(こちら)、お気に入りのドメーヌ・バロー(下の写真)が、このヴェルジッソンの岩山の麓にあることを知りました。

当時は、アポはとっておらず、訪問は実現しませんでした。今回、プイィ・フュッセを再度訪れるにあたって、ドメーヌへの訪問受入れをお願いし了解を得ていましたが、畑仕事で対応できないということで、キャンセルになってしまいました。そこで、今回訪問先として選んだのが、3年前に、この辺りを歩いていた際に目に入ったドメーヌ・カレットです。

カレット家は、プィイ・フュッセがまだ地元消費の白ワインだったころからヴェルジッソンの地でブドウ栽培を開始しており、プイィ・フュッセが国際的に評価が高まった1980年代にワイナリーを設立しています。
現当主は、3代目にあたるエルヴェ・カレットで、ドメーヌを引き継いだ後、醸造家としてドメーヌのワイン造りに参画していたナタリーと結婚し、夫婦二人三脚で本格的に元詰めを始めました。この地のテロワールを強く反映した彼らのワインは、徐々に高い評価を得ていきます。
ブドウ畑の管理は、エルヴェが担当し、ナタリーは、醸造から熟成、ブレンド、瓶詰めまで、ワイン造りの全工程を監督していおり、さらに販売やマーケッティングも担当しているようで、今回の訪問もナタリーさんが対応して頂きました。
先々代(現当主の祖父)は、畑を借りて小作人していましが、畑のオーナーが引退したのに伴い、3~4haの畑を購入したのが始まりで、その後、買い足して、現在は17haほどとのこと。この地方としては多い方かと思います。畑は、ヴェルジソンと近隣の5つの村にまたがって広がっています。
年間生産量は、平均8~10万本で、3分の2が国内、3分の1が輸出、輸出先としては、日本(ちょっと意外)、スイスが多いとのこと。ワインは白12種類(アリゴテ1種を含む)で、赤ワインは造っていないとのこと。
↓フラッグシップは、ドメーヌのすぐ裏手斜面に広がる1級畑、レ・クレイ(Les Crays)です。

↓★印がドメーヌの位置です。

↓レ・クレイの畑。斜面に広がる畑は、白っぽい石灰質土壌というのが分かります。

5種類のワインをテースティング。2024年ヴィンテージが中心ですが、注文が多く、結構売り切れているようで、残念ながら、フラッグシップのレ・クレイは飲めませんでした。

まずは、アリゴテから

2025 L’Aligoté

サン・ヴェラン地区のシャスラ村(Chasselas)のアリゴテからの亜硫酸無添加のワインです。
2025年9月に収穫し、1月には瓶詰め。4ヶ月で仕上げたワインのようです。
アリゴテらしい溌溂とした酸とフレッシュな果実味が感じられる軽快なワインです。
この産地のシャスラ村ですが、ボジョレーとブルゴーニュの境界にあり、ここで造られる白ワインは、区画によっては、ブルゴーニュ(サン・ヴェラン)を名乗れずに「ボジョレー・ブラン」になるとのこと。20年前にアリゴテを植えたときは、例外的にブルゴーニュ・アリゴテとして認めらたが、5,6年前にアリゴテを植えたときは、ブルゴーニュ・アリゴテとしては認められなかったので、クレマン(のブレンド?)用としてネゴシアンに売っているとのこと。
アリゴテ100%だとクレマン・ド・ブルゴーニュとして認められないので、彼女は、将来的には、亜硫酸無添加のVin de Franceのペティアンとして造りたいと思っているとのこと。
↓オレンジの区画がSaint-Véranを名乗れる畑。紫の斜線部分が、白ワインであれば、Beaujolais BlancかCremant de Bourgogneになる区画のようです。

2024 Macon Milly-Lamartine

ミリー・ラマルティーヌとういのは、ちょっと聞き慣れない村名ですが、昔は、マコン・ミリーと呼ばれていたということで納得しました。この村出身で文筆家のアルフォンス・ド・ラマルティーヌ(Alphonse de Lamartine)を称えて、この名称になったようです。

ステンレスタンクのみで1年熟成。
青リンゴやパイナップルの香り。フレッシュでフルーティなマコンらしいワイン。
2024年のこの地方の気候について聞いたところ、「2024年は雨が多く、ベト病の年といわれるが、確かに雨は降ったものの土砂降りではなく、良い感じに所々で降った。2025年も雨が多く、土砂降りもあったうえに、暑さが加わったのでカビが広がった。この地方では、2024年の方がマシだった」とのこと。2024年の収穫量は少し減った程度で、コート・ドールのような大幅な収穫減にはならなかったようです。

2024 Saint-Véran Les Charenays

前述のアリゴテと同じシャスラ村のサン・ヴェランが名乗れる2つの区画のシャルドネから。
醸造は、ミリー・ラマルティーヌと同じステンレスタンクでの1年熟成。
シャスラ村の土壌は粘土石灰質。リオンの建築現場でも使われている良質の石灰岩で村には石切り場もあるようです。
アリゴテの区画よりも粘土質が多く、保水性の良い土壌とのこと。
果実味豊かで、前銘柄より、柔らかさを感じます。

再び、ボジョレーの話題になりました。
フランスでは、赤の需要が減りフレッシュな白が好まれる傾向があり、ボジョレーでは、最近、赤を引き抜いて、白を植える生産者が多いが、ボジョレー・ブランの知名度は高くないことから、クレマン・ド・ブルゴーニュを造るケースが多くなっているとのこと(クレマン・ド・ブルゴーニュは、ボジョレーの南まで造ることが可能)。
ボジョレーの土壌は、花崗岩土壌という刷り込みがありますが、実際には、花崗岩土壌は、ボジョレーの中央部分のクリュ・ボジョレーのみで、この北端のシャスラ村の区画やボジョレー南部では、下部には花崗岩があるものの、表面は粘土石灰の土壌のようです。
ボジョレー南部は、かつてはボジョレー・ヌーボの主産地として有名でしたが、最近は人気が無いので、前述のように、クレマンへシフトする生産者が増えてきているようです。日本では、かつての勢いは無いものの、ボジョレー・ヌーボは未だ話題になりますが、フランスでは、バーでも6本くらい仕入れて一晩で終わてしまうワインというイメージのようです。ボジョレーには行ったことがないので、実際に現地でどう思われているのかは、分かりませんが、ちょっと興味深い話でした。

2024 Pouilly-Fuissé Aux Charmes

ヴェルジッソン村のやや標高の低い位置にある粘土石灰質の畑です。あまり、聞き慣れない村名畑ですが、10人ほどが所有しているようです。
このアペラシオンの面白いところは、多様な土壌/畑の向きが四方に向いている/標高差が大きいという特徴を有している点とのこと。2020年のプルミエ・クリュ(赤で囲われた畑)の認定からは外れています。前述のとおり、ブルゴーニュの偉大な土壌は、石灰岩土壌というのが通例で、粘土質寄りの畑は選ばれないというのが背景にあるようですが、ナタリーさん自身は、この畑を高く評価しており、プルミエ・クリュと同じように手をかけて世話をして、同じように醸造しているとのことです。 

バリックで1年熟成(新樽率は15%)後、ステンレスタンクで6ヶ月熟成。
よく熟した青リンゴや果樹の花に加えて、オーク由来のバニラやバターが加わり複雑な香り。ふくよかで厚みのある果実味が感じられる味わい。長熟にも向くようです。レ・クレイとの比較はできませんでしたが、おそらく石灰岩主体の土壌からの緊張感のあるテーストとは異なる温かみと思われます。

2024 Pouilly-Fuissé 1er Cru Pouilly “Clos Guerin”

ソリュトレ・プイィ村のプルミエ・クリュ’Poully’の北の方で石垣に囲われているクロ・ゲランという泥灰質土壌の畑。
比較的標高が低く、東向きの斜面なので、ブドウが早く完熟する畑のようです。プイィ・フッセの中でも特に暖かい土壌で、今よりも寒かった時代には、良い区画と評価されていたようです。しかし、最近の温暖化の状況で、少し苦しい状況にあり、フレッシュ感のあるワインを造る為に、色々と栽培上で工夫しているとのこと。例えば、樹を高くして、葉の数を増やし、葉で影を作る。それにより、太陽の光を良く取り込みながら、直射日光をブドウに直接当てないようにする。あと、耕し方を少し変えたり等々。ビオの認証を取ろうとしているため、除草剤は一切撒かないが、フレッシュ感を如何にキープするというところに力を入れている。
収穫時期を早める工夫はしないのか?という問いには、早く収穫することは行っていない、度数の問題でなく、収穫の基準は、フェノール分がきちんと完熟しているかというのを見ているので、早く収穫することは行わない。一番それを理解するのにシンプルな方法は、一番自分が食べたいなと思うタイミングで収穫する。良く熟しているが過熟にはならないようにブドウ畑の造りを変えることで、いきなり度数があがらないようなブドウ畑を作っている。
収穫のタイミングは、最終チームより少し前という感じ。プイィの村とベルジッソンの村は、数キロしか離れていないが、プイィは、規模も大きく、暑くなりすぎるといけないので、(この地の生産者は)収穫を急ぐ傾向にあるが、ヴェルジッソンは、じっくりと完熟を待つ生産者が多く、プイイの中では最後の方の収穫が終わってからヴェルジッソンに戻ると、全然最後ではないとのこと。「メンタリティの違い」と表現していましたが、もちろんテロワールの違いはあるとはいえ、収穫時期に対する意識もそれぞれの村の生産者によって異なるようです。

冷涼なヴィンテージらしいフレッシュ感はありながら、良く熟した果実の凝縮度も感じられます。熟成のポテンシャルもそこそこ高いと思われます。
さらにプイィ・フュッセの南側のテロワールについても聞いてみました。
南のChaintréは、ソーヌ川に近いので霧の影響を受けやすいが、標高が低く温かいので、昔は、ブドウは良く完熟した。北のヴェルジッソンは、なかなか完熟しないと追われていたが、温暖化の今は逆転してしまった。
湿気が多いことで、霜や夏のベト病の被害が多い(北の方はうどんこ病が多い)とのこと。
↓シャントレの区画。すぐ東側のソーヌ川が流れています。

テースティングルームの棚には、ヴェルジッソン村のサン・ヴァンサン(ブルゴーニュのブドウ栽培者の守護聖人)の像がいくつか飾られていました。サン・ヴァンサン像はヴォーヌ・ロマネのミシェル・グロでも目にしましたが、それは、村で持ち回りで管理している像とのことでした。ここに飾られている像は、その年のワインを村の共同体で評価して、賞として贈るもののようです(順位によって大きさが違います)。この地のサン・ヴァンさんを祝う集まりは1月にあり、そこで村の生産者が古いワインを持ち寄り皆で飲む機会があり、3軒のドメーヌが長い熟成に耐える良いワインを造っていると評価されたそうです。その3軒が、バローとソメーズ・ミシュラン、そしてカレットとのこと。バローのプイィ・フッセの熟成能力の高さは、実感していますが、カレットも同様に高く評価されているようです。

実は、このドメーヌのワインを日本で飲んだのは、1度だけで、銘柄も記憶に残っていませんでした。急遽、訪問先に選んだドメーヌでしたが、結果、大正解でした。2024年という難しいヴィンテージながら、綺麗な酸とピュアな果実味やミネラルを感じられる素晴らしいワインの印象に加え、ナタリーさんが熱心に語るこの地のテロワールやサン・ヴェランに隣接するボジョレーの話はとても興味深いものでした。

最後に、一昨年に引き続き、今回の3日間のワイナリ訪問を調整からアテンドまで丁寧にサポートして頂いたボーヌ在住の花田砂子さんに深く感謝申し上げます。

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この記事を書いた人

1958年東京生まれです。
昨年、仕事をリタイアして大好きなブルゴーニュワインとグルメや旅行を楽しんでいます。
主な資格(Foods&Drinks):
JSA ワインエキスパートエクセレンス(2022)
JSA SAKE Dioploma(2018)
WSET Level3(2025)
CPA チーズプロフェッショナル(2017)
SSI 唎酒師(2018)
日本テキーラ協会 テキーラマエストロ(2017)

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