5月22日、16世紀から14代続くエギスハイム最古のワイナリー、エミール・ベイヤー(Emile Beyer)を訪問しました。伝統的な家系ながら、クリーンでモダンなスタイルのアルザスワインを生み出すワイナリーです。
↓ワイナリーは、コルマールから5kmほど南西に位置するエギスハイム村のほぼ中心部にあります。

エミール・ベイヤーの歴史
ワイナリーの歴史は、16世紀、1580年に遡ります。マルタン・ベイヤーがこのエギスハイムの設立し、ウクライナ人の奥さんと共に歩みだします。おそらく最初は、ブドウ農家としてのスタートだったと思われます。
ドメーヌの商業的基盤を作ったのが、現在のドメーヌ名となっている19世紀のエミール・ベイヤー氏です。現在も引き継がれている科学的でモダン醸造を確立した最も重要な人物が、現当主クリスチャン・ベイヤー氏の祖父にあたるエミール=ヴィクトール・ベイヤー(Emile-Vector Reyer)氏です。彼は、ディジョン大学でワイン造りを学び、当時の免許状もまだ残っているとのこと。その後、息子のリュック・ベイヤーが、当時はグラン・クリュの制定前だったエギスハイムの多くの畑を買い増し、その息子の現当主クリスチャン・ベイヤー氏が、1997年に14代目としてワイナリーを継承しています。
今回、対応していただいたのが、クリスチャン氏の奥様、ヴァレリーさんです。エミール・ベイヤーさんが通ったディジョンのワイン学校で学んで、10年前から(セラードアに)立っているとのことです。

オーソドックスながらモダンなテースティングルームです。

所有畑について
ドメーヌの所有畑は、17haで、エギスハイム周辺に集中しています。一部、買いブドウを使用しているネゴシアンでもあるようです。コルマールに近いエギスハイムは、雨が少なく、温暖な気候なので、酸を活かしたいリースリングは、斜面の上部に植えられているようです。
グランクリュは、アイシュベルグ(Eichberg)とフェルシグベルグ(Pfersigberg)の区画に畑を所有しており、所有畑の3分の1を占めているとのこと。石灰岩の土壌が多く占め、この土壌が、ワインに繊細さと奥深さ、そしてミネラルを与えています。

テースティング
まず、クレマン・ダルザスから。ドメーヌは、3つのクレマンをリリースしています。
2022 Crémant d’Alsace Blanc de Blancs Extra Brut
2023 Crémant d’Alsace Rose Brut
2022 Crémant d’Alsace Emile Vector Extra Brut
Blanc de Blancsは、ピノ・ブラン、ピノ・オーセロワ主体にシャルドネを5%ほどブレンド。青リンゴ、洋梨に白い花、仄かなブリオッシュ香。酸は、それほどシャープではなく、ピノ・ブランやオーセロワの柔らかさが出ています。
Roseは、フルーティーでやさしい味わい。万人受けしそうなロゼのクレマンです。
Emile Vector(試飲はしていなかったと思います)は、現当主のおじいさんへのオマージュのキュヴェとのこと。2022年は、ピノ・ブラン50%、シャルドネ40%、ピノ・ノワール10%のセパージュです。
充分美味しいクレマンですが、ここの直前に訪れたLipp&Sonの3年瓶熟成のクレマンが素晴らしかったので、少し霞んでしました笑。
シャルドネは、Alsace AOCでは、使えない品種なのですが、クレマンには、しばしば使われています。
この地のシャルドネについて聞いてみたところ、「温暖化の影響もあり、ピノ・オーセロワを間引いて、シャルドネを植えている。ピノ・オーセロワは温暖化に弱く、暑くなると、実が軟化する。一方でシャルドネはフレッシュ感を保てる。標高が高い所ではよいが、コルマールの横にあるエギスハイムはやや暑いので、これからはシャルドネが増えるかもしれない」とのこと。50年前くらいからブドウの品種を変えていて、それ以外にも、一部ゲヴェルツトラミネールを間引いてリースリングに植え替えているとのことでした。

2025 Les Prémices Riesling
スタンダード・キュヴェのリースリングです。このワイン日本でもFiradesさんから何回か購入して飲んでおり、エミール・ベイヤーを知るきっかけになったワインです。
Les Prémicesというのは、「初めて~する」という意味で、フレッシュ感や親しみを込めているとのこと。
エチケットに書かれているデザインが気になっていたのですが、「18世紀にパリで空想上の地図に基づいて作成されたもので、ワインを飲むのは旅をしているようなもの」という意味が込められているとのこと。
この2025年ヴィンテージですが、2024年が寒い年で酸が強かったのに対して、雨が少なく、太陽はそれなりに出ていたので、少しリッチな味わいになったとのこと。
日本で最後に飲んだのは、2024年ヴィンテージでしたが、溌溂とした(だけど、尖っていない)酸は変わりません。比較は難しいですが果実味は僅かに厚くなっていると思われます。アルザスのリースリングは、冷涼な気候条件から、品種特有のペトロ香は殆ど感じられません。
このエントリークラスのワイン、3K円台で買えるアルザス・リースリングとしては秀逸だと思います。ちなみに、ワイナリーでの2025年の価格は15€でした。日本での価格は、少し上がるかもしれません。

↓ラベルのもとになった18世紀に描かれた地図のようです。

↓エミール・ベイヤーさんが(ワインの醸造について)書いた手書きにメモを見せてくれました。

2024 Eguisheim Mosaïque
(写真を撮り忘れました)
エギスハイム村のリースリング、ピノ・グリに少量のシルヴァーナ、ミュスカのホワイトブレンド。
ピノ・グリ、シルヴァーナ、ミュスカは、混醸でリースリングとアッサンブラージュしたワインとのこと。
柑橘果実に桃、洋梨のアロマ。酸と果実味ヴィンテージのバランスの取れた味わい。寒い年を反映してかドライなテーストです。
日本では、見かけないワインなので、輸入されていないかもしれません。
続いて、グランクリュのリースリングです。

2023 Pfrsigberg Riesling
フェルシグベルグの坂の上と下に植樹されており、一番傾斜がきついところの畑で、ジュラ紀の石灰質が残っている。夜は寒い風が吹き抜けるのでフレッシュな酸味が残るとのこと。HPによるとPfrsigbergというのは、かつてブドウ畑に豊富に自生していた血のように赤い桃の樹(Persicavulgaris)にちなんで名付けられたようです。
溌溂とした酸に熟したレモンやパイナップル・ロティ、少し甘みを感じるフルーティでリッチなテーストに石灰からのミネラルが感じられるグランクリュ。
2023 Eichberg Riesling
Eichbergは「樫の木の丘」の意味のようです。
泥灰岩(と砂岩)の畑。スポンジ状で水はけが良いので、根が水を探して深くまで伸びるとのこと。
豊かなミネラル、長い余韻が続くリースリング。
MLFにより酸が丸くなっているとのこと。リースリングは、酸を活かすために一般にMLFは行わないと認識していたので、ちょっと意外でした。この点を尋ねたところ、「醸造家にもよるが、ビオディナミのワイナリーでは行っているところも多い」とのこと。
ヴィンテージが異なるので、何とも言えませんが、確かに、先に訪れたバルメス・ブシェールのリースリングに比べると酸は柔らかい気がしました(特にアイシュベルグ)
続いて、ピノ・グリの試飲です。

2023 Hohrain Pinot Gris
2022 Les Prémices Pinot Gris
Hohrainは、先代が50年前に植えたフェルシグベルグ北東にあるジュラ紀の石灰岩の畑から。
(HPによると)Hohrainとういのは、ドイツ語由来で「高い丘」の意味のようです。
2023年はリッチで糖分が高く、2024年に比べ3g/lの残糖差があるとのこと。イノックスで1年半シュール・リー。
桃やアプリコット、少しスモーキーなニュアンスも。
発酵するときに出る澱の薄いところだけを残してマノプロテイン(酵母の細胞壁から溶け出す多糖類のこと)を発生させているとのことで、トーストのような木の香りが出るとのこと。
続いて、楽しみにしていたピノ・ノワールの試飲です。
2023 Les Traditions Pinot Noir
2022 Eguisheim Pinot Noir
Les Traditionsは、除梗でイノックスで熟成、Egiusheimは、全房発酵でバリック熟成とのこと。
今回訪れたアルベールマンとバルメス・ブシェールは、2022年、2023年は売り切れ、2024年は収量減のためグランクリュは飲めなかったのですが、こちらは、2022年と2023年がテースティングできました。
ちなみに、ピノ・ノワールは、グラン・クリュの認定品種でないので、Eguisheimのラベルには、Grand Cruの表記がありません。

流石に、(2024年とは異なり、)どちらもしっかりと色がついており、やや濃い目の色合いです。
Les Traditionsは、ラズベリーやレッドチェリーの赤系果実の華やかな香り、柔らかく、フルーティさが強調された味わいです。
バリック熟成のは、より複雑なアロマに、スパイスのニュアンス、豊かなタンニンを伴うしっかりとした骨格をもつワインです。
女性陣の評価は圧倒的に前者(笑)でしたが、熟成を期待して、Eguisheimを購入しました。グランクリュながら、何と、19.5€という安さでした。
↓こちらの写真は、エギスハイムの畑で石垣の囲いを作っている様子です。エギスハイム生まれでブルゴーニュで働いている方が2010年に作った1kmほどの石垣とのこと。土砂の流出を防ぐのと、生物多様性、そして熱くなり過ぎないようにする効果があるようです。

最後は、甘口のゲヴェルツトラミネールです。
2023 Vendanges Tardives Gevwurztraminer
遅摘みのゲヴェルツトラミネールから。
濃い黄金色の外観、熟したアプリコット、マンゴのコンフィー、蜂蜜やジンジャーの典型的なVTゲヴェルツです。
余韻も長い。

最後は、当主のクリスチャン・ベイヤーさん、そして、ちょうど学校から帰宅した二人の息子さんと記念撮影です。
息子さんの抱いているウサギですが、名前が「ピノ・ノワール」とのこと。黒ブドウに由来しているのでしょうか?笑

こちらのワイナリーは、一般のゲストにもオープンなようで、今回は、試飲のみのコースを選択しましたが、カーヴの見学含めテースティングのコース等いくつかのメニューがあるようです。
歴史のあるワイナリーながら、生み出されるワインは、どれも、洗練されており、やや辛口指向のモダンなスタイルでした。価格も比較的良心的だと思います。
リースリングは、酸をあまり強調し過ぎず、丸みのある果実味を活かした造りで、万人受けするワインではないかと思います。旨味が感じられるピノ・グリ、豊かな果実味のピノ・ノワールも印象的で、日本でも追いかけてみたいと思います。
テースティングを終え、少しエギスハイムの街を散策しました。

↓教会の塔の上には、アルザスの象徴でもあるコウノトリの巣が見えます。

美しいステンドグラスのある教会内部も必見です!


2024年冬に続き、2度目のアルザス、前回は、ワインバックやマルセル・ダイスといった名門のワイナリを中心に周りましたが、今回は注目のライジングスターや中堅ながらお気に入りのワイナリー、そして日本では知られていない(未入荷)のワイナリーを訪問しましたが、日本では無名のワイナリーもなかなか素晴らしいワインを生み出していることに驚かされました。ネームや評論家の点数に左右されず、手頃な価格のお気に入りのアルザスワインを見つけ出すのも楽しみなりました。
最後に、前回に引き続き、プランニングから当日のワイナリーのアテンドまで、親切にサポートしていただいたアルザス現地ガイドのeikoさんに深く感謝いたします。
アルザス プライベート観光ガイド(alsacejapan.com)のリンク
了

コメント