ジャン・グロの正統~ミシェル・グロ訪問

8月下旬にブルゴーニュを訪れました。5度目となる今回は、3日間かけてドメーヌを訪問しました。最初に訪れたのはヴォーヌ・ロマネ村のミシェル・グロです。ヴォーヌ・ロマネのドメーヌのワインで最も飲んでいる部類に入るこちらのワインへの思い入れは強く、今回、是非訪れたかったドメーヌでもあります。

目次

ヴォーヌ・ロマネの名門グロ家の歴史の始まりは、1804年生まれのアルフォンス・グロに遡ります。アルフォンスは1830年にヴォーヌ・ロマネに移住し、この地でドメーヌを構えます。4代目にあたるルイ・グロが礎を築き、その子供のひとりであったジャン・グロ(Jean Gros)が、ヴォーヌ・ロマネの古典を体現した造り手として高い評価を得ます。ジャン・グロ時代には、リシュブール、エシェゾー、クロ・ヴージョ、そしてモノポールのクロ・デ・レアといった珠玉の畑を所有していましたが、彼の引退に伴い、1996年に3人の子供(ミシェル・グロ、ベルナール・グロ、アンヌ=フランソワーズ・グロ)に分割されます。
リシュブールの所有畑は、2人の娘が引き継ぎ(ミシェル・グロもリシュブールの一部を引き継ぎますが、DRCの借地だったので、その後の返還により失われたようです)、グロ家初代からの看板畑であるクロ・デ・レアは、長男のミシェル・グロが引き継ぎます。
ミシェル・グロは、幼いころから父ジャン・グロと畑や醸造に触れ、古典ブルゴーニュの精密さを身につけていきます。その意味で、ジャン・グロの正統を引き継いだ人物と言えるかと思います。
現在は、息子のピエール・グロさんが実務上のドメーヌの当主として引き継いますが、まだ、ミシェルさんも畑に出ているようです。
↓生前のジャン・グロさんと奥さんのジャニーヌ・グロさんです。なぜか、後ろにリアル・ワインガイド誌が….

ドメーヌの所有畑は、トータルで23haほどで、その半数以上の15haがオート・コート・ド・ニュイにあるとのこと。オート・コートは、60~70年前は狩りをする場所で何も植えられていなかったが、下(コート・ド・ニュイ)の畑は既に価格が高かった為、ドメーヌを大きくするためには、オート・コートの畑を買って耕すしかなかったとのこと。更に歴史を遡ると、1800年後半にフィロキセラでブドウの樹は全滅し、荒れ地になっていたが、第二次世界大戦後に再度を植えたらポテンシャルがあると考えた人たちが買いはじめ、ミシェル・グロもその一人だったようです。
↓ミシェル・グロのオート・コート・ド・ニュイの畑です(写真を加工して見やすくしています)

ミシェル・グロは、オート・コート・ド・ニュイの区画から3種類のワインをリリースしています。区画名を冠した「Au Vallon」と「Fontaine Saint-Martin」、そして複数区画をブレンドした「Bourgogne Hautes-Cote de Nuits」です。このうち、最も評価が高いのが、Fontaine Saint-Martinです。
理由は、(地図の)上の方の区画は西向きで傾斜がなく平らなのに対して、Fontaine Saint-Martinのある下の方は、東向きで傾斜があり、ワインにすると、より味わいが強くて筋肉質で厚みがある感じになるとのこと為とのこと。Fotaineの名前が示すようにこの場所は泉が沸く場所で、今も水路があるとのこと。
ドメーヌ訪問後、このオート・コートのフォンテーヌ・サン・マルタンの畑を訪れてみました。
オート・コートの15haの所有畑のうち、この畑だけで7haあるとのことで、結構広大な畑でした。
コート・ド・ニュイの畑と異なり樹の列の間隔がかなり開いています。コート・ド・ニュイの畑では、大きなタイヤのトラクターが、樹を跨ぐように耕している光景を見ますが、こちらは、おそらくトラクターが通れるくらいの幅ではないかと思います。高密集度=高品質という説もありますが、低密集度の方が、乾燥に強く、果実へのストレスが少なく果実味が前面に出て柔らかなあじわいになるというメリットがあります。いずれにせよ、ブドウの管理は遥かに楽になるものと想像されます。

さらに、異なるのは、主幹の高さです。ここでは、地表からかなり離れた位置にブドウを成らせるように仕立てられています。これは、(コート・ド・ニュイに比べて)気温が低い為、地表から話すことで芽が凍るのを避けるためのようです。

↓一般的なコート・ド・ニュイの畑です。同じブルゴーニュながら、仕立てや列の間隔がかなり違います。

先に訪れたシャンパーニュ地方では、開花は未だでしたが、こちらは、開花が始まっていました。ここ数日の暑さも影響しているのかもしれません。

↓コート・ド・ニュイの所有畑は、下記地図の赤印の部分です。

村名
 Nuits‑Saint‑Georges
 Nuits‑Saint‑Georges Les Chaliots(ニュイ・サン・ジョルジュ村の南側の畑)
 Chambolle Musigny
 Vosne-Romanée
Morey-Saint-Denis En La Rue de Vergy
Gevrey Chambertin La Platiere
1級畑
Nuits‑Saint‑Georges 1er Cru
Vosne-Romanée 1er Cru Clos des Réas (Monopole)
Vosne-Romanée 1er Cru Aux Brulees
特級畑
 Clos Vougeot Grand Cru
 Echezeaux Les Loachausses Grand Cru(ジャン・グロの妹、コレット・グロが相続した畑を継承。2022年から)
Richebourg Grand Cru(ジャン・グロの妹、コレット・グロが相続した畑を継承。2022年から) 

テースティングは、地下のカーヴ内で行われました。ブルゴーニュでは専用のテースティングルームやセラードアを備えているドメーヌは、そこそこ規模の大きいドメーヌやネゴシアンに限られているので、これは、よくある光景です。
↓上記の畑の説明と共にテースティングの対応をしていただいた、セラさんです。2年前からドメーヌで働いているとのこと。酸化防止用にコルヴァンを使用していました。

まずは、オート・コート・ド・ニュイから

2023 Bourgogne Hautes-Cote de Nuits Fontaine Saint-Martin Blanc

除梗後、実の粒を一晩漬けこみ、しっかりとしたボディにするために、絞ったジュースをタンクでアルコール発酵させるが、アルコール発酵の途中で樽(新樽率20%)に移して、10ヶ月樽熟成させるとのこと。
ライム等の柑橘果実、青リング、洋梨、ほんのりオークのニュアンスはあるが過度ではない。味わいのアタックは、すっきりとした酸とミネラル感、厚みのある熟度の高さを感じる果実味と少しクリーミなテーストも。

2023 Bourgogne Hautes-Cote de Nuits Fontaine Saint-Martin Rouge

造りは少し変わっていて、フードル(大樽)で6ヶ月熟成させたのちに、1年バリックで熟成させるとのこと。
このワインは、2020、2021、2022年と飲んでいますが、2021年を除くと、オート・コートにしては、少し黒系果実も混ざる香りと凝縮感のある果実味を感じるワインという印象でした。最後に飲んだ2022年については、早かったのか、ややオーキーさを感じましたが、この2023年は酸、果実味、タンニンのバランスが取れているように思いました。

村名は、ニュイ・サンジョルジュ、シャンボール、ミュジニーとヴォーヌ・ロマネです。

2023 Nuits‑Saint‑Georges Les Chaliots

ニュイ・サン・ジョルジュ村の南側にある畑で小石(=Chaliots)が多い畑です。完全除梗で18ヶ月のオーク樽熟成。
2024年は、現在樽からステンレスで休ませているとのこと。
より力強さが感じられる味わいだが、果実味は柔らかく、タンニンは結構滑らか。

2023 Chambolle-Musigny

国道(D974)沿いの下部の3区画とMusignyの横の上部の1区画のブドウから。醸造や熟成はニュイ・サン・ジョルジュと同じ。華やかな赤系果実の香りが良く開いており、フルーティでエレガント。熱さは感じず、クラシカルな味わい。
2022年と2023年は、どちらも暑い年だが、2022年はより濃く、2023年はみずみずしく、サラさんは、23年が好みとのこと。2023年は、収穫量が多かったがブドウは完熟したとのこと。ちなみに2019年と2020年に関しても聞いたところ、2019年は暑くて(ワインは)濃い、2020年の方がバランスが良かったとの感想でした(ちょっと意外)

2023 Vosne-Romanée

Aux RéasとLa Colombièreを含む3区画のブドウから。有名な区画なので区画名を入れたほうが、高く売れそうですが、各面積が小さいので全て混ぜているようです。
ヴォーヌ・ロマネらしい華やかな香り。試飲した村名の中では、最も果実感を感じ、味付きが良い印象。ブドウの完熟感があるので、厚ぼったくはないとのこと。

2023年は、収穫のタイミングが遅いと濃くなりすぎ、早すぎると果実の完熟度が足りなくなるが、ドメーヌでは9月頭から収穫を行い、タイミング的にはベストだっだようです。 ちなみに2024年は熟すのが遅かったので9/21、2025年は2023と同様(9/3)だったとのこと。

試飲の最後は、プルミエ・クリュの3種です。

2023 Vosne-Romanée 1er Cru Aux Brulees

リシュブールの隣のですが、リシュブールが東向きなのに対して、オー・ブリュレは北向きで少し寒いのでプルミエ・クリュになっているようです。オー・ブリュレは縦長の畑ですが、ドメーヌの所有区画は一番下とのこと。北向きながら、陽当たりも良く収穫は早い。暑苦しいワインになりがちだが、上部に谷があり、そこから涼しい風が吹き込むのでバランスの良いワインに仕上がるとのこと。
50%新樽で18ヶ月熟成。
香りは既に良く開いており華やか。若いので樽が少し多めに感じられるが、果実の凝縮度は高く複雑さもグッと増す。

2023 Vosne-Romanée 1er Cru Clos des Réas (Monopole)

ミシェル・グロの看板畑クロ・デ・レアです。樹齢は、オー・ブリュレとほぼ同じ40年ほどとのこと。前銘柄同様、50%新樽で18ヶ月熟成。
個人的に、好みのキュヴェで、過去、色々なヴィンテージを飲んでいますが、2020年以降のヴィンテージは未だ飲んでいません。10年は寝かせたいと思っています。
2023年は、グッと旨味が増しますが、やはり厚ぼったさは皆無で、前銘柄に比べても繊細でフレッシュ、エレガントさを感じます。
平均の年間生産量は、クロ・デ・レアが1万本、オー・ブリュレが4~5千本とのこと。

2020 Nuits‑Saint‑Georges 1er Cru

このキュヴェのみ2020年でした。暑かった年のイメージが強く、濃い色調です。味わいもしっかりとしたした骨格を感じますが、柔らかく口中に広がる感じではなく、余韻はやや短い印象。
ここのプルミエ・クリュとしては、クロ・デ・レアに次いで飲んでいますが、やはり飲み頃になるまで少しかかる印象を持っています。

コンクリートタンクとステンレスタンクが並んでいます。ステンレスタンクは、息子のピエールさんが沢山導入したようです。丸いタンクには、樽から移した2024年の瓶詰め前のワインが入っています。

バリックが整然と並んでいます。三段まで重ねているドメーヌもありますが、ここは1~2段です。

↓試飲用のボトルでしょうか?バックヴィンテージもあります。
生産量は、2023年は12万本ですが、2024年は、半数以下の5万本とのこと。
全体の80%が輸出で、最大の輸出先が日本、他は米国、ベルギー、スイス、最近は中国にも輸出しているとのこと。

↓ワインを購入する為に訪れたドメーヌの事務所には、黄金の伝統衣装を纏ったサン・ヴァンサン(Saint Vincent)の像が飾られていました。サン・ヴァンサンは、ブドウ畑を守ってくれるというブルゴーニュの守護聖人として崇められており、毎年1月の最終週末には、ブルゴーニュ全体でサン・ヴァンサン・トゥルナント(Saint‑Vincent Tournante)という祭りが開催されています。かつて、TVで見て、そのことは知っていましたが、それとは別に、各村でもサン・ヴァンサン祭りが行われているようで、ヴォーヌ・ロマネ村でも今年は1/22に行われたようです。村の協同組合に加盟しているドメーヌが、持ち回りで、このサン・ヴァンサンの像を管理することになっており、祭りの当日に像を御神輿に乗せて歩き、ミサの時に感謝を捧げるとのこと。今年は、ミシェル・グロが担当だったようですで、事務所の中にそのサン・ヴァンサンの像が飾られていました。

サン・ヴァンサンの左にあるのは、クロ・デ・レアの土壌にサンプルです。

クロ・デ・レアは、三角の畑ですが、土壌は一律ではなく、異なっていることがわかります。

土壌の説明は、

Fosse1(サンプル左):崩積土、非石灰質、表層は炭酸塩、厚い〜非常に厚い(60〜100cm)、斜面を移動・堆積した物質に由来し、多様な下層(泥灰岩および/または礫岩)の上に位置する
Fosse2(サンプル中央):成熟土、中程度の石灰質、厚い(60cm)、漸新世(オリゴセーン)の礫岩層上
Fosse3(サンプル右):成熟土、中程度〜強石灰質、厚い(50cm)、漸新世(オリゴセーン)の強石灰質泥灰岩層上

専門的過ぎて、詳細はわかりませんが、Fosse1のような非石灰質の堆積土が厚い土壌は、果実のボリュームや丸みが出るゾーン、下部の多くを占めるFosse2や水色の上部の土壌は、石灰質を多く含み、ミネラルやシャープで緊張感のある味わいが感じられるゾーン、中央のFosse3は真っ白い強い石灰の層がみられ、酸や強いミネラル、冷涼感を生み出すゾーンと思われます。
全てのブドウをブレンドするので、当然ながら最終的にワインの特徴は平均化されますが、僅か2haほどの畑の中で複雑なレイヤが存在していることに驚かされます。

最後に、事務所の壁に貼られているあるグラフが目を惹きました。
↓出展は不明で、フランス全体なのか、ブルゴーニュなのかはわかりませんが、2000年代(2000~2022年)の各年の平均気温(縦軸)と降水量(横軸)を表すバブルグラフのようです。
なんとなく、2011年や2013年は、寒い年で、2003年、2018年~2020年、2022年は暑い年という認識は持っていたものの同様なヴィンテージを比較できるほどの知識は持っていなかったのですが、このグラフを見ると一目で比較ができます。特に2013年は、気温が低く、非常に雨が多かったこと、2022年は2020年や2018年に比べても暑く乾燥した年であったことが一目でわかります。2010年は10年で最も平均気温が低かったようですが、グレートヴィンテージと評価されています。最も、どの地域を示しているのかはわかりませんが…
ここには、2023年は、ありませんが、色々と調べてみると、平均気温は2023年とほぼ同じ~やや高い、降水量は、平均(Normal)のようです。2024年がどこに位置づくのか興味があります。

グラン・クリュの試飲ができなかったのは残念ですが、思い入れのあるワインだけに、今回、畑、特にオートコートの畑の見聞を通して知識を深めることができ、非常に有意義な訪問となりました。

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この記事を書いた人

1958年東京生まれです。
昨年、仕事をリタイアして大好きなブルゴーニュワインとグルメや旅行を楽しんでいます。
主な資格(Foods&Drinks):
JSA ワインエキスパートエクセレンス(2022)
JSA SAKE Dioploma(2018)
WSET Level3(2025)
CPA チーズプロフェッショナル(2017)
SSI 唎酒師(2018)
日本テキーラ協会 テキーラマエストロ(2017)

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