チーズプロフェッショナルの呼称資格は、ソムリエのような一般的な知名度はありませんが、名前のとおり、飲食店やチーズの販売に携わるプロ向けの資格です。チーズとワインは切り離せない関係の為、ソムリエやワインエキスパートがステップアップを目指す資格にもなっています。2017年にチャレンジして取得したこの資格について、合格のコツを含めて綴りたいと思います。これからチーズプロフェッショナルの取得に挑戦される方の参考になれば幸いです。
チーズプロフェッショナル呼称資格試験について
NPO法人チーズプロフェッショナル協会(Cheese Professional Association、略称CPA)は、日本の食卓、そして日本人の様々な生活シーンにチーズを定着させるために、日々活動を行っている非営利団体です。この協会の活動の一環として、チーズプロフェショナル資格認定試験の実施があります。チーズの基礎的な知識と取扱いに関して精通し、チーズの伝え手となる「チーズプロフェッショナル」を認定する為の呼称資格制度です。資格試験は、1次試験・2次試験共に年1回実施されます。1次試験は7月後半、2次試験は10月に行われます。
1次試験は、チーズの歴史や原料や製造方法、生産量、世界各国のチーズ、サービス、関連法規、料理等の知識を問う問題、2次試験は、テースティング試験のほか、知識やサービスをより深く論述させる問題、セミナやセールスの企画、チーズ料理等に係る論述問題です。
難易度は年によって異なりますが、合格のボーダーラインは、70%と固定で、ソムリエ協会のように問題の難易度で調整されないようです。その為、合格率にばらつきが出ます。20%代もあれば、50%代もあるようです。
チーズプロフェッショナル協会が設立された2000年から2018年までの18年間で、3,194名がチーズプロフェッショナルに認定されていますがが、ソムリエ協会の呼称資格取得者が、ソムリエ+ワインアドバイザー+ワインエキスパートの合計で累計6万人を超えていることを考えると、希少な資格だと思います。
私が受講した2017年の合格率は、一次試験が、38.2%(509名の受験者に対して202名の合格者)、二次試験が前年からの繰り越し受験者を含め、70%(304名の受験者に対して164名の合格者)率でした。ストレート合格者は、20%代前半と思われます。ちなみに、当年の2次合格者一覧を見ると、164人中90名(55%)が東京在住者でした。合格者は、47都道府県中、23都道府県のみで、首都圏にかなり偏っていることがわかります。
取得のきっかけと試験勉強
資格取得を決めた時点で、チーズは好きであったものの、カマンベール・ブリーやパルミジャーノ・レッジャーノ、ゴルゴンゾーラを嗜む程度で、知識も皆無の状態でした。本資格に興味を持ったのは、2016年にワイン・エキスパートを目指していた時に、たまたま某大手スーパでワインの試飲会を行っていた際に、説明員の女性が、ブドウのバッチと合わせて付けていた変わったバッチ(後にチーズの検査を行うトライヤーをモチーフしたことを知りました)を見て、この資格のことを知り、同時にバッチを欲しくなったという少々邪道なきっかけです。ちなみにテキーラ・マエストロの資格も同じ理由でした。
とは言え、当時はワインとチーズのペアリングに強い興味を持っていたことが、受験を踏み切る後押しになった背景もあります。
前年に取得した日本ソムリエ協会のワインエキスパートに関しては、もともとそれなりに知識は持っていたこともあり、締め切り間近に申込み、2か月程度のほぼ独学(「その他お酒」のみスクールのセミナー受講)でなんとか合格することができました。しかし、チーズに関しては、ほとんど素人であったことと、色々なチーズを個人で購入にて勉強するのは、少々、荷が重いと考え、スクールに入ることにしました。
受講したのは、恵比寿と新宿に教室がある「レコール・デュ・ヴァン」です。
15回ほどのレッスンのチーズプロフェッショナル取得コースで、座学に加えて、毎回数種類のチーズ(+有料でワインあり)のテースティングレッスンがありました。毎回、復習テスト等もあり、サボる余裕も全くなく、効率的に勉強が行えました。
こんな感じで毎回テースティングを行い、評価を述べます。各チーズのカットについても実践します。
日本のチーズのテースティングもありました。共同学舎の「コバン」やアトリエ・ド・フロマージュの「ココン」などです。何と日本最古のチーズである「蘇」のレシピで作られたチーズのテースティング機会もありました。決してテースティング試験には出るようなものではありませんが、チーズの知識を広げる貴重な経験ができました
ちなみに受験した2017年は、カマンベール・ド・ノルマンディ、ロングライフカマンベール、サン・タンドレが2次試験のテースティングに出ました。他はアボンダンスでした。香りやテクスチャーや風味を正しくコメントできるかが評価されます。
試験問題内容について
ソムリエ協会のマークシート方式と異なり1次試験も2次試験もいずれの記述問題です。一次試験の問題は、基本的には、教本の内容から出題されます。教本自体は247ページ(2017年度版)で、ソムリエ教本の半分以下のページ数です。しかもソムリエ教本に比べると写真も多く、一見丸暗記も難しくないと思えますが、記述式なのでうろ覚えは通用せず、きちんと覚える必要があります。
過去問は、チーズプロフェッショナル協会のHPに掲載されていますので、この資格にご興味をお持ちの方は、ご確認ください。
以下はこの呼称資格の合格のポイントについて思うところを書きたいと思います。
各チーズ特性についての問題
フランスの36のAOPチーズは全て、イタリアについても主要なチーズ名について原語で書ける必要があると思います。原料乳にはすべて、その他の仕様も主要なチーズについては覚えておく必要があります。2017年に受験した際には、カマンベール・ド・ノルマンディの重量(250g)がわからないと解けない計算問題が出題されいてます。特に大型のチーズについては、直径や重さを掴んでおく必要があります。小型のシェーブルは、大小比較ができる程度にサイズを覚えておく必要があります。
また、フランス、イタリア、スペインの生産地についは、地図上で場所示せる必要があります。地理問題のようですが、ベルギーやオランダ、ギリシア、キプロスの位置も正確に覚えておく必要があります。なぜ牛でなく羊が多いのか、その地域の気候や土地の特性を合わせて覚えておきます。
フランスやイタリア以外のチーズ生産国の特徴については、2~4百字程度できちんと記述できる必要があります。2017年は、ギリシアやオーストラリアが出題されました。
製造工程の問題対策は必須
チーズプロフェッショナル協会は、製造に関する知識を最も重視しています。間違いなく多くの問題が出題されます。例えば「パスタフィラータ」がどのようなことを行うかだけでなく、何故行うのか、そのメリットまでを深堀しておく必要があります。
2017年の第1問目にリンドレスチェダー~プロセスチーズまでを製造する工程に関する問題が出ました。冷却やフィルム包装という工程がどこに入るのかを理解しているかがポイントになりますが、リンドレスチーズの製造工程自体は、教本にも記載されていない問題であり、結局、この問題だけで30分以上を回答に費やすことになってしまいました。正答率が低い難問だったようです。
製造工程順を問う問題は穴埋め形式が多いのですが、1つでも間違うと、全滅する可能性もあります。この問題が、この年の合格率を30%代まで下げた要因と思われます。
二次試験問題は一次問題の正答率を見て出題されることがある
前述の製造工程の問題は、正答率が低かったため、さらに深堀した問題が、再度2次試験に出題されました。明らかに、1次試験の結果を参考にした問題作りを行っているようです。1次試験で出題されたから2次試験では同じような問題からは出題されないと思うのは間違いです。
教本外からの出題もありうる
上記のリンドレスゴーダの製造工程だけでなく、教本に書かれていないことが出題されることが、時々あります。ソムリエ協会の資格試験ではあまりないことです。独学で勉強される方は、教本以外に2~3種類の参考書にも目を通しておいた方が、確実です。
マーク問題への対応
ここ数年、何のマークかを問う問題が出題されるようになっています。2017年にはイタリアのタレッジオのマークが出題されました(さすがにこれは難問でした)イタリアのAOPチーズのマークについては要注意です。
文章の丁寧さや文字の綺麗さも合否判定を左右
プロフェッショナルの試験は、通常、面接等で、受験者を直接見て、態度や会話を合非判定するケースが多いです(ソムリエ試験の3次試験が相当)。CPA試験は、スタッフリソースの関係でこれができないので、回答記述を見て受験者の資質を判断するようです。従って、殴り書きのような回答は、内容にかかわらず、減点となることがあるようです。
基本講習会には極力参加を
1次試験のひと月位前にチーズプロフェッショナル協会が、基本講習会を開催します。この講習会で、その年の出題傾向がある程度想像つきます。2万円近い費用がかかる講習で、義務でもありませんが、まる1日の講習でテースティングも含まれるので、試験に確実に合格する為には受講をお勧めします。
2次試験は、色々な問題を想定して、短時間に要領よく記述する訓練を
スクールに通っていた時に、2次試験に何度トライしても玉砕してしまう人に会ったことがあります。暗記の世界は通じず、知識に加えて応用力が試される問題が出題されます。
ちなみに2017年には、こんな問題が出題されています。
「あなたがイタリアンレストランに勤務していると仮定し、Parmigiano Reggianoを3種類の形状で様々に提供する。例を参考に、他の2種類について、どのような道具を使い、どのような形状にして、どのような食材に合わせ(調理して)提供するか。また、その提供方法のアピールポイントを、異なる観点から2点挙げよ。」
過去問から想定を変えて、類似のパタンが出題されることもあるので、短時間に要領よく、文章にまとめる訓練をしておくと良いと思います。
セミナー企画問題も今後、結構出題されると思います。過去に
・フランスのチーズのセミナーを3回に分けて企画せよ
・サント・モーレ・ド・トゥーレーヌを1つ使い、チーズセミナーを開催する。カットする際の留意点、あわせるワインの味わいや理由を述べよ
などといった問題が出題されています。
応用として、以下のようなものも考えられます。
・老人ホームでチーズのセミナーを企画せよ
・小学校でのチーズのセミナーを企画せよ
対象に合わせた選択や、チーズを好きになってもらう工夫、飲料(アルコールに限りません)の考慮等を考えながら短時間で論述してみる等の訓練が有効かと思います。
今回は資格取得を目的にチーズの勉強をしましたが、意識していなくても、何気なくチーズを食べる機会は多いと思います。そのような時にそのチーズがどこでどのように作られたかを知っておくと、また違った興味が沸くと思います。日本の一般のスーパで売られているチーズは、ごく限られたものですが、チーズ専門店に行けば、他にも素晴らしいナチュラルチーズを見つけることができます。チーズの熟成状態・食べごろや季節性のあるチーズ等の話題も知識を持っていれば、店員との会話が弾みます。
残念なことに、日本でのナチュラルチーズの値段は、輸入・国産ともに、諸外国に比べると、とてつもなく高いです。100g当たりの値段が、2千円近いものもあり、高級和牛の値段をも超えています。
EUとの経済連携協定(EPA)の発効により、今後、関税の削減・撤廃が期待できますが、それまでは、高いの我慢しながらも、美味しいチーズを探す日々が続きそうです。
また、チーズプロフェッショナルとして、チーズの普及についても機会あるごとに、意識していきたいと思います。
今回は、チーズプロフェッショナル取得について述べましたが、協会では、「チーズ検定(コムラード・オブ・チーズ)」を全国各地で開催しています。1日で、講義を受講して最後に試験を受けるものですが、チーズを気軽に知る機会には最適です。チーズに興味のある方は、是非お勧めします。
了