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ブルゴーニュワインとチーズをこよなく愛するシニアのブログです。素晴らしいお酒とチーズの出会いを中心に日常を綴ります。

イタリア旅行2023年~キャンティクラシコ編

4年前に計画したものの、コロナで断念した経緯のある念願のイタリア・トスカーナ旅行です。まずは、ワイン好きにとって、トスカーナと言えば外せないキャンティのワイナリーを訪問しました。昔は良く飲んだものの最近は、少し遠ざかっているキャンティワインですが、その伝統を再認識するととともに、新たな魅力を発見するきっかけとなりました。

2023年9月11日にキャンティ・クラシコのワイナリーを訪問しました。
当日フィレンツェから訪れたワイナリーは、キャンティ・クラシコに含まれるグレーヴェ・イン・キアンティ地区のVilla CalcinaiaとMontefilralle Winery、そして、立ち寄るだけですが、有名なAntinoriのワイナリーです。

最初に訪れたのは、キャンティ・クラシコのサブリージョン(ソットゾーナ)のひとつ、Grave in ChantiにあるVilla Calcinaiaです。当日、他に訪問者は無かったため、プライベートツアーになりました。

グレーヴェ・イン・キャンティにおいて500年の歴史をもつカッポーニ家。現在で37代目だそうです。ワイン生産を始めたのは、1730年からで、ブドウのほかにオリーブを栽培しています。

↓カッポーニ家の家紋です。この家紋、ラベルのデザインにもなっています。ワイナリーの庭には、様々なハーブ類が植えられており、ひとつひとつ説明して頂きます。レモン、オレンジとポメロ(左の緑の果実、グレープフルーツに似ている)を栽培しています。ワイナリーから見える丘(標高330m)の上の畑は、キャンティ・クラシコの最高峰、グランセレツィオーネを生産するサンジョヴェーゼのブドウ畑のひとつだそうです。
このあたりの土壌は、粘土質と砂質ですが、この上部の畑は、岩っぽく、石灰を含む土壌のようです。
仕立ては、下部がグイヨ、上部は、アルベレッロとのこと。アルベレッロと聞いてピンとこなかったのですが、いわゆる株仕立て(ゴブレと同様?)です。直射日光を避け、下からの反射熱を利用できるメリットがあるとのこと。ちなみにワインの生産量は、90エーカー(36ha)の畑から、10万本。うち、キャンティ・クラシコが2万本、グランセレツィオーネが、6000本(3つの畑から各2000本)、残りがキャンティ・クラシコ・レゼルヴァとのこと。
グランセレツィオーネ(Gran Selezione)は、2013年にキャンティ・クラシコ協会により制定されたキャンティ・クラシコの最上級のカテゴリーです。規定上は、アルコール度数13%以上、30ヶ月の熟成(うち3ヶ月の瓶内熟成)とされていますが、このワイナリーでは、加えて、ブルゴーニュの格付けのように畑名指定(Bastignano/Contessa Luisa/La Fornace)としているようです。

↓下の写真は、ヴィン・サント(Vin Santo)を生産する小屋です。
ヴィン・サントは、「聖なるワイン」を意味するイタリアのデザートワインです。ブドウの品種は、マルヴァジア、トレビアーノ、カナイオーロとのこと。サンジョヴェーゼは使用していません(サンジョヴェーゼを使用した赤の甘口ワインはペルニーチョと呼ばれますがこのワイナリーでは生産していません)。
この小屋の屋根裏部屋で、2ヶ月間陰干し(60%の水分をとばす)したのち、醸造しますが、ここのワイナリーでは、さらに小樽で10年間!熟成させるとのこと。以下は、醸造設備です。
収穫は、1、2週間前に終わっているようでが、除梗後の果梗が未だ放置されていました。↓発酵用のステンレスタンクですが、なんと屋外にあります。
赤ワイン用で2週間、自然酵母で36度で発酵させており、温度が上がりすぎないように冷却装置を備えています。果房が上にあがってきたものを、チューブで吸い上げて、上から混ぜています(いわゆるルモンタージュ)。コンクリートの発酵タンクも使用されていますが、これも屋外にあります。大きな畑のものは、ステンレスタンクで、小さな畑のものは、コンクリートタンクで発酵させているとのこと。こちらは、屋内にあるステンレスタンクです。白ワインは屋外のタンクでは温度が上がりすぎるので、この室内のステンレスタンクが使用されているとのことです。グランセレツィオーネのブドウのみ選別して木樽(トノー)で発酵させています。
この時期しか見られない貴重な場面を見ることができました。ラベルには、グランセレツィオーネの1つの畑 Contessa Luisa の文字と09.09.23の文字が見えます。グランセレツィオーネは、このトノーにブドウを入れ、潰して混ぜる、ミルフィーユ上にこれを何層かで繰り返し、20日間(他は2週間)かけて発酵させるとのこと。
あくまで、この醸造方法は、他のワイナリーのグランセレツィオーネで一般的に行われている訳ではないとのこと。発酵後のワインは、地下の木樽で熟成・ブレンドされます。今回、ここで、初めて知ったのが、キャンティ・クラシコD.O.C.G.の認定方法です。
キャンティ・クラシコ地区で生産されたワインで品種構成や熟成期間を満たせばキャンティ・クラシコを名乗れるのかと思っていましたが、そうではないようです。
キャンティ・クラシコ協会による官能試飲で許可が下りたものだけが、キャンティ・クラシコD.O.C.G.と認定されるようです。
その方法ですが、樽からボトルへ移されたワインを協会の5人の審査員が審査し、そのうち3人が合格を出せば認定されるとのこと、ただ審査員によるばらつきもあるので、この審査は、3回まで行われ、それでもOKが出なければ、I.G.P.(Vino a Indicazione Geografica Tipica)として出荷されるとのこと。

クラシコとレゼルヴァは全て木樽で熟成されます。クラシコについては、サンジョベーゼは大樽で18ヶ月熟成、別樽で熟成したカナイオーロとブレンドされます。レゼルヴァはサンジョベーゼのみで、トノー(500L樽)で18ヶ月、その後木樽で6ヶ月熟成されます。グレンセレツィオーネは、トノーで2年熟成させ、瓶詰し、収穫後3年以降に出荷されます。樽は、フランス産、イタリア産とスラヴァニア(スロヴェニアではありません)産とのこと。↓木樽が並ぶ熟成庫です。トノー(500L木樽)の上にいくつか、バリック(225L)の小樽がありました。これは、何に使用されているのか聞いたところ、「スーパートスカン
」すなわち、メルロー用とのこと。このワイナリー、メルローも栽培していますが、メルローは、オーナが間違って植えてしまったとのこと笑。真偽は別として、土着品種しか使いたくなという考えをもっているようです。このあたりに、伝統的な生産者のプライドが感じられます。ここからは、試飲です。
まずは、オリーブオイルから。オリーブオイルは、酸が低い方が良質で、そのために収穫後42時間後にプレスするとのこと。アンティチョークのような香りと少し苦みがあり、料理用にはあまり向かず、直接味わってほしいとのことでした。

ワインの試飲ですが、最初のサーブされたのが、意外にも泡でした。プロセコのような軽い泡を想像しましたが、何と45ヶ月瓶内熟成とのこと。品種は忘れましたが、パンドミーやナッツの印象に確かに長期瓶内熟成の複雑さを感じました。赤は、キャンティ・クラシコ、レゼルバ(2種)、グランセレツィオーネの順にテースティングしました。いずれもルビーカラーと言っていましたが、クラシコやレゼルバは少し色濃く、ダークチェリーレッドともいえる色調でした。いずれも2019年だったと思います。クラシコ(90%サンジョベーゼ、10%カナイオーロ、18ヶ月熟成)の味わいは、良く日本でも飲んでいるキャンティ・クラシコそのもので、比較的酸が強くやや粗いタンニンを感じます。レゼルバ(100%サンジョベーゼ)は、より濃く艶と深みのある色合い、ダークチェリーやブラックベリーの黒系果実の香りにオークやスパイス複雑さがより加わります。
レゼルバについては、特別に昨日開けたという2010年ヴィンテージのものもテースティングさせてくれました。こちらは、タバコ、マッシュルーム等の熟成香が顕れており、より複雑な印象でした。
赤の最後が、グランセレツィオーネですが、こちらは、クラシコ、レゼルバとかなり異なり、柔らかく、エレガントな印象です。正直言うと、若いサンジョベーゼは苦手なのですが、これは、驚きのエレガントなサンジョベーゼで、ピノ好きの自身にとっても非常に惹かれる印象的なワインでした。ワイナリーでの価格は、クラシコは19€、レゼルヴァが、36€、グランセレツィオーネが
49€と割とリーズナブルです(日本での価格もほとんど変わらないと思います)。↓最後がヴァン・サントです。ブドウ4kgから一房しか取れず、生産量は年間600本で、ここのヴァン・サントは10年熟成させています。生産過程で電気は一切使用していないとのこと。完全にビジネスメリットはないようです。
ドライイチジクを感じる凄く上品な甘さに熟成によるナッツ香とかも感じられ素晴らしいヴァン・サントでした。↓このワイナリで生産されているワインがずらりと並べられています。↓ヴィンテージは、忘れましたが、最初に生産されたキャンティ・クラシコのようです。

次に訪れたのが、モンテフィオーラ・ワイナリー(Montefilralle Winery)です。こちらは、さらに小規模な家族経営のワイナリーのようです。
1964年創業で、3エーカーの畑から1万5千本のワインを生産しています。ワイナリーは、Montefilralleという小さい村の麓にあります。↓ワイナリーの前に広がるブドウ畑です。ボルドーでよくみられる薔薇です。ブドウの樹の病害をいち早く検知するための役割を担っています。収穫は、9月中旬に3~4日間かけて行われたとのことでしたが、採り忘れか、ワインに適さないと判断されたのか、いくつかの房がまだ残っていました。↓ここのワイナリー見学には、何組かの観光客が集まっており、グループツアーとなりました。時間も30分ほどで、畑の説明等は特に無く、内容的には、ごくお決まりの見学ツアーという感じでした。収穫したワインは、直ぐに発酵用のステンレスタンクに入れられ、アルコール発酵、マロラティック発酵を経て3月に木樽へ移され1~2年後に瓶詰めされます。発酵後の皮はグラッパ用に売却されるとのこと。熟成庫です。2022年産のワインが熟成されています。↓こちらは白ワインの熟成樽のようです。↓注目したのはこれ!アンフォラ(セラミック製と言っていました)を使用しているようです。2019年から使用し始めており、1年を木樽、1年をセラミック樽で熟成させているとのこと。目的は、よりブドウそのものの味を生かす(オークの影響を少なくする)ため。この前のVilla Calcinaiaでは、全く見られませんでしたが、後から調べたら、イタリアでもアンフォラを熟成に使うワイナリーがいくつか出始めているようです。簡単なワイナリー見学のあとは、屋根付きの屋外テーブルで試飲です。イタリアでおなじみのブルケッタ(パンの上にトマトがのっている)や肉団子(ポテンツァ?)などをつまみに、試飲しました。
試飲したワイン(写真を撮り忘れました笑)は、キャンティ・クラシコとレゼルバの2種のみです。グランセレツィオーネやヴィン・サントも生産しているようですが、数はかなり少ないようです。
キャンティ・クラシコ(2021年)は、90%サンジョベーゼ、10%カナイオーロとコロリーノ。カナイオーロは、ワインに柔らかさ与えるため、コロリーノは、色付きを良くする目的があるようです。スチールタンク1年+オーク樽1年熟成で、セラミックタンクは使用されていません。
ワイナリーのベースラインのワインですが、酸やタンニンの荒々しさはなく比較的軽く、飲みやすい印象でした。
2本目はレゼルバで品種構成はクラシコと同じ。樹齢15年以上のブドウでグリーンハーベストを行っており、1つの木で4~5房(通常は7~8房)に制限しているようです。このワインの熟成には、最後の1年間、前述のセラミックのアンフォラが使用されているとのこと。色合いは、クラシコに比べてやや濃く、果実味がより豊かで、オーク香・タンニンは控えめで、まさにアンフォラ熟成の良さがでている印象でした。このワイナリー、見学としては、若干面白みに欠けるものでしたが、ワインについては、柔らかくエレガントで気に入りました。同行の妻(ピノ好き)もVilla Calcinaiaのクラシコ、レゼルバに比べて、エレガントで飲みやすいという反応でした。

最後の訪問先は、マルケージ・アンティノリ(Antinori)です。
言わずもかな、イタリアの超名門・老舗の大手ワインメーカです。トスカーナ中心ですが、ウンブリア、ピエモンテなどイタリア各地に10以上のワイナリーを所有しています。このワイナリーを選んだのは、2012年に完成した近未来的なワイナリーの建物を見てみたいという単純な理由からです。ワイナリーツアー(要予約)もありましたが、時間が限られており、当日フィレンツェまで戻って、次の宿泊地まで移動する必要があったため、建物の見学のみにとどめました。ワイナリーは、小高い丘の上にありますが、予約者以外は、麓の駐車場からきつい坂を結構歩かされます(シャトルバスもあります)。建物の周りには、整然とブドウが植えられています。建物自体が近代アートという感じで、クラシカルなキャンティのワイナリーとは、全く異なります。
らせん状の階段を上ると屋上に出ます。面白いことに、この建物の屋上にもブドウが植えられています。内部には、アンティノリ、アンティノリグループの様々なワインがディスプレイされており、もちろん購入ができます。ここのフラッグシップと言えば、ティニャネロ。サンジョヴェーゼにカベルネ・ソーヴィニヨンブレンドした日本でも有名なスーパータスカンです。過去1990年台のものは飲んでいますが、最近はご無沙汰しています。2020年ヴィンテージが販売されていましたが、価格は125€(約2万円)。日本では、現在1.5万円程度で購入できるので、結構割高です。
イタリア、フランスとも高級ワインについては、概して日本の方が安いです。ワイナリー直で購入すると少し安く買えることもありますが、ここは、ちょっと違うようです。もちろん試飲もできます。ちなみにティニャレロは、12€と20€です。

この日のキャンティ訪問記は、以上です。
午前中のVilla Calcinaia訪問は2時間以上に及びましたが、奇しくもプライベートツアーとなったため、栽培から、醸造や熟成の詳細な説明、フルラインナップの試飲といろいろ楽しむことができました。エクセレンスの勉強で、キャンティクラシコ)の歴史や規定については、ひととおり学んでいましたが、キャンティクラシコの官能検査による認定方法など知らなかったことも多く、とても興味深いものでした。
ここのグランセレツィオーネとヴァン・サントの生産過程を聞くと、まさに採算度外視の造りを行っていることが判りました。もちろん、グランセレツィオーネの畑指定や手の込んだ醸造方法、ヴァン・サントの10年熟成などは、規程されているものではありませんが、この伝統的生産者の強いこだわりを感じることができました。
強い酸と新いタンニンという先入観から、最近はやや敬遠していたサンジョヴェーゼですが、今回の試飲や現地で飲んだブルネロ・ディ・モンタルチーノをとおして、こんなエレガントなサンジョヴェーゼワインもあるんだと、この品種を見直すきっかけにもなりました。
最後に、プランニング段階からご相談にのっていただき、前日も色々なトラブルがあったにも関わらず、柔軟に対応していただいたフィレンツェ在住のマリさんに深く感謝を申し上げます。