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ブルゴーニュワインとチーズをこよなく愛するシニアのブログです。素晴らしいお酒とチーズの出会いを中心に日常を綴ります。

イタリア旅行2023年~バローロ・バルバレスコ(後編)

2023年9月18日に訪れたピエモンテ州バローロ・バレスコのワイナリー訪問記です。前編のルチアーノ・サンドローネ、マルケージ・ディ・バローロに続いて、ラ・モッラ村のマウロ・ヴェリオとバルバレスコのソクレです。いずれも比較的歴史の浅い家族経営のワイナリーですが、素晴らしいワインを生産していました。

↓この日3軒目のワイナリーであるマウロ・ヴェリオがあるラ・モッラ(La Morra)村の中心部です。ラ・モッラは、バローロ地区の中で栽培面積が最も多い村になります。あいにくの空模様です。

この村の中心部は、標高600mほどになります。上の鐘楼の近くにブドウ畑を見下ろせるビュースポットがあります。上と同じ時刻に撮影した写真ですが、こちらがやや青空も見えますが、残念ながら、ちょっと霞がかかっています。
ラ・モッラ村は、位置的には、バローロ村とともにバローロの西側になり、トルトニアーノと呼ばれる青い泥灰土に砂混じりの土壌から、香り高く優美なバローロが生まれると言われています。

↓こちらは、村の中にあるVicino DiVinoというワインショップです。外側からは分かりにくいですが、結構大きな店舗で、バローロの凄い品揃えです。↓おそらくワイナリーでは購入できないと思われるオールドヴィンテージも結構そろっています。下は、ブッシア・ソプラーナの1999年ヴィンテージです。

3軒目の訪問先、ラ・モッラ村のマウロ・ヴェリオ(Mauro Veglio)です。
以下は、インポータさんのマウロ・ヴェリオの情報(歴史)になります。
ヴェリオ家は1900年代初頭からブドウを含む果樹の栽培と家畜の飼育で生計を立てていましたが、1928年に生まれたアンジェロは、ワイン造りの夢を持ち、1960年代初頭にガッテーラの畑を、1979年にカシーナ・ヌオーヴァの畑を購入しましたが、1986年に病気で倒れ、息子のマウロに夢を託しました。経営を引き継いだマウロは、ワイナリーを設立し、1992年に初めて自社ワイナリーを設立しました。

↓ワイナリーから見えるラ・モッラのブドウ畑です。↓収穫前のネッビオーロ(だと思います)。↓ちょうどこの日のバルベーラの収穫を終えたところでした。健全そうなブドウです。当主のマウロさんも笑顔が見えます。収穫されたブドウは、直ぐに除梗機にとおされ、茎が取り除かれ、そのままステンレスタンクに流し込まれています。この除梗機自体は、何度も目にしていますが、実際に稼働している光景は初めて見ました。

熟成は新樽~3年使用樽までを使用。年3回(5月中旬ドルチェットなどの若い品種、6月中旬、7月中旬バローロ)ボトル詰めをするとのこと。
クリュバローロのみ、クリオマセレーション(低温浸漬)を行っているとのことで、目的は、フレッシュな香りを出すこととデリケートにタンニンを収束させるためのようです。
ピエモンテの白といえば、コルテーゼ種からのガヴィが有名ですが、最近は、シャルドネに似た(シャブリのように酸が豊かな)土着品種のティモラッソが注目を浴びており、最近ティモラッソの畑を買ったとのこと。

↓セッラルンガ・ダルバの2020年ヴィンテージが瓶熟中です。↓樽と瓶熟中のワイン、そして出荷待ちのワインが同じ場所に同居しています。↓窓から畑が見える試飲室です。リビングのようで、いかにも家族経営のワイナリーらしい雰囲気です。

時間も押していたので、ドルチェットは省略して、バルベーラから試飲しました。
左の2本がバルベーラ・ダルバです。カジュアルなものと骨格のあるものの2種です。

1.Barbera d'Alba 2022?
カジュアルなバルベーラ(白ラベル)は、ステンレス短期で熟成させ、翌年の5月に瓶詰めするとのこと。完熟したバルベーラはアルコール度数が上がりすぎるのでコントロールするのがポイントとのことです。

2.Barbera d'Alba Cascina Nuova 2021
骨格のあるバルベーラ・ダルバ(緑ラベル)は、カシーナ・ヌォーヴァという畑の南向きの斜面のブドウで、よりポテンシャルが高いということで、確かにフレッシュさが強調されている前者に比べ凝縮感が感じられます。こちらは、25%バリック新樽で18ヶ月熟成とのこと。本来バルベーラ・スーペリオールが名乗れるようですが、アルコールが高いイメージがあるため、あえてこの名称は使わないとのこと。バルベーラは熟成もするがフレッシュさを失わないのが特徴とのこと。
ルチアーノ・サンドローネのバルベーラ・ダルバも(トノーですが)新樽で熟成させており、ポテンシャルの高いバルベーラに関しては、新樽を使用するというのが珍しくないようです。

3.Langhe Nebbiolo 2022
バローロ50%、ロエロ50%のネッビオーロから。バローロ以外に、ロエロで収穫するブドウが入るとこのランゲ・ネッビオーロになり、ランゲだけだとネッビオーロ・ダルバになるようです。ここのバローロは、ディアノ・ダルバ村の畑のようで、この村の畑は11ありますが、3つの畑しかバローロ(DOCG)は名乗れないようです。
シンプルでフルーティ、飲みやすいですが、2022年と若いだけあってタンニンはそれなりに感じられます。

ここからバローロです。

4.Barolo 2019
4つの畑のブドウを使用した、コミューネ・バローロです。7~10日の果皮浸漬、24ヶ月小樽(そのうち10%新樽)熟成。やや淡い赤系果実。ツンとする冷涼な香り。味わいはタンニンは豊かですが、比較的円やかで、収斂性はそれほど感じません。

5.Barolo Arborina 2019
ラ・モッラの標高250~320mの畑。樹齢は42年で、この畑の所有者は7人とのこと。
前のコミューネ・バローロに比べると僅かにスパイス感が強まります。味わい的にはこちらも強さよりも柔らかさを感じます。

6.Barolo Gattera 2019
説明はありませんでしたが、おそらく、先代が最初に手に入れた畑だと思います。樹齢65年。樹齢65年。24ヶ月バリックで熟成。この畑のブドウが最初に完熟するとのこと(標高は200m台で比較的低いようです)。
少しオレンジがかった色調で、タンニンは比較的円やかで、柔らかい味わいです。

7.Barolo del Comune di Serralunga d'Alba 2019
2019年に新しく手に入れた畑とのこと。このワインは、タンニンを付けたくないとの理由で大樽熟成(経験上試しているとのこと)
前の3本のバローロと打って変わって、結構骨格を感じるバローロです。タンニン、酸ともより強く感じます。やはり、セッラルンガ・ダルバの特徴をよく表わしているワインだと思います。

8.Barolo Castelleto 2019
モンフォルテ村の畑Catelletoの標高は、260m~490mとなっていますが、ここは標高が高いと説明していました。バリックで熟成とのこと。
このワインを飲むまでは、セッラルンガ・ダルバが最も力強いバローロと思っていましたが、このカステレットも非常に力強さを感じるワインです。
色あいもやや濃くなり、ドライハーブ、ミントやリコリスのスパイス、香りや味わいに深みがあります。熟度も高いようで、アタックに凝縮感を感じ、しっかりとしたタンニンを感じる余韻も長めです。バリック熟成の性格も反映しているように思います。今回の試飲で最も印象的なバローロでした。

さらに、スペシャルなクリュバローロを試飲させてもらいました。
Barolo Paiagallo 2019、Barolo Castelletto 2012、あと1999年のBarolo(クリュ名失念)です。
Paiagalloは、バローロ名のクリュですが、小さい畑で、生産量は大樽1樽分のみとのこと。柔らかくで優しい味わい、タンニンも控えめです。Castelettoの2012年ヴィンテージは、このワイナリーで販売できる最も古いワインとのこと(55€)。厚みがありながら熟成によりエレガントさが顕れたバローロです。1999年のBaroloは、色調は淡いレンガ色ながらタンニンは未だ結構感じられ、まだまだパワフルなワインです。
4件目のワイナリー訪問もあり、限られた時間の中で、多くのワインを慌ただしく試飲することになり、各々を十分に味わい、比較することがなかなか難しかったですが、同じバローロながらクリュの違いを体感することができる貴重な試飲体験でした。

こちらのワインは、一軒目のルチアーノ・サンドローネと同じジェロボアムさんが輸入しており、日本でも比較的容易に入手できるようです。
また、ルチアーノ・サンドローネ同様、11月にプロモーションの為に来日するようで、可能であれば、試飲会に参加してみたいと思っています。

バローロからバルバレスコに向かいます。途中でアルバの町を通ります。白トリュフ産地として有名です。

やがて、バルバレスコの畑が見えてきます。アルバ、バルバレスコ、トレイゾの3つの村の真ん中あたりの風景です。バローロに比べ標高は低く、傾斜の緩やかです。

最後の訪問先が、バルバレスコのソクレ(Socré)という家族経営のワイナリーです。
ワイナリーのホームページの情報によると
「現在のソクレの歴史は1869年にバルバレスコで設立され、現オーナの曽祖父が農地を購入し、ブドウ畑を栽培するためにバルバレスコに移住したことに始まります。このワイナリーとその農場の名前であるソクレ(ピエモンテ語で下駄を意味する)はすでに存在しており、前の所有者の活動に由来しています。」

現オーナのマルコ・ピアチェティーノさんは、現在67歳で、元は建築家だったとのこと。結構有名な方で、バルバレスコの街中にある塔の設計等にも携わったようです。
当日は、既に17時半を過ぎていましたが、オーナー自ら、セラーを案内してもらいました。優しく温和な感じの方でした。

↓発酵用の木樽、ステンレスタンク、コンクリートタンクが並んでいます。

試飲アイテムとして、最初に供されたのが意外にも泡でした。
アルタ・ランガ(Alta Langa)です。ピノ・ネロとシャルドネ主体で造られる瓶内二次発酵のスプマンテです。よくみると、セラーの奥に、ルミアージュ(動瓶)用のピュピートル(穴の開いた板で、傾斜ついており、滓を瓶口に集める)が置いてありました。規模からすると、かなりの少量生産で、おそらく市場には殆ど出ていないのではないかと思われます。
すっきりした飲み口ながら、瓶内二次発酵の複雑性も感じます。やさしい甘みもありましたが、ノンドゼ(補糖ゼロ)とのこと。果実の甘みのようです。

続いての試飲は白です。2018年のランゲ・シャルドネでバリックで熟成させているとのこと。"PAINT IT BLACK"という銘柄です。知らなかったのですが、ローリングストーンの曲名のようです。白ワインですが、赤ワインのように造ったとのこと。皮と共に醸して仕込んでいるワインと思われます。それを反映して、やや濃い黄金色です。
香ばしさと凝縮した果実からの厚みが感じられ、かつ樽熟による複雑性が感じられる美味しいワインです。このワインは日本にも輸出されているようです。

↓このワインのバリック熟成です。セラー内、樽をテーブル代わりにした試飲でしたが、見渡すと、こんなワインが目に留まりました。モスカートのパッシート(陰干しブドウから作られる甘口ワイン)だそうです。生産量は1000本で、輸出はしていないとのこと。赤ワインは、4種類の試飲でした。

1本目は、Barbera 2020です。
このバルベーラのワイン、なんと腐葉土のような熟成香が感じられます。酸は比較的落ち着いており、円やかで飲みやすい赤です。熟成方法については、記憶していませんが、おそらくバリックを使用しているのではないかと思います。

2本目、3本目は、コムーネもののBarbaresco 2018年とクリュ名付きの、Barbaresco Roncaliette 2017年です。Roncaliette(ロンカリエ)は、バルバレスコ村のクリュで、このワイナリーを代表するワインのようです。
違いについては、はっきりと覚えていないのですが、どちらも柔らかく、赤いベリー系の果実の甘みも感じられ、タンニンには収斂性がなく、優しい印象のネッビオーロワインでした。まさに、女性的と言われるバルバレスコの特徴を顕しているワインだと思います。ピノ好きの妻も、バローロのタンニンは少し苦手なのか、このバルバレスコをとても気に入ったようでした。

4本目は、写真左端のラベルが貼られていないワイン、Barbaresco Pajorè 2019です。
これは、最近手に入れた、トレイゾ村のパイオレというクリュからのバルバレスコで、この2019年が初ヴィンテージとのこと。ラベルも貼られてなく、まだ市場には出回っていませんが、いきなり、ガンベロ・ロッソで最高のバルバレスコに選ばれたとのこと。
前2本に比べ、より深みのある味わいで、旨味のようなものが感じられます。

オーナは、何とシャンパーニュにも畑を持っており、ピノ・ムニエからのシャンパーニュも委託で生産しているようです。
最後に、スペシャルなワインを持ってきていただきました。
ここの看板ワインともいえるBarbaresco Roncalietteのバックヴィンテージ、2011年と2008年です。なぜか、2008年だけボルドータイプの瓶です。試飲はしていませんが、間違いないと思い、この2本を購入しました。2008年ヴィンテージのものはラベルを貼っていませんでしたが、その場で、オーナ自らラベルを貼っていただきました。ソクレのワイナリーを後にして、トリノに戻ります。
時刻は、既に18時半を過ぎており日が落ちかかっています。↓帰路で通ったタナロ川です。この川がもたらす砂質の土壌が、バルバレスコのワインを優しいものにするとも言われています。今回のバローロバルバレスコのワイナリー訪問記は以上になりますが、非常に充実した1日でした。ピノ好きの自分にとって、強めのタンニンながらピノノワールに似たエレガントなワインを生み出すネッビオーロは、興味の対象でした。今回のワイナリーでの試飲をとおして、この品種は、標高もありますが、他の品種以上に土壌の性質を如実に反映していることが判りました。それがまた、ネッビオーロが北イタリアの一部でしか生産されていない所以でもあると想像しました。好きなブルゴーニュは、畑名まで頭に入っていますが、バローロバルバレスコについては、村名レベルまで、今回耳にした畑(クリュ)名は大半は聞いたことがないものでした。幸いなことに、この地区のワインは、ブルゴーニュ同様、ラベルにクリュ名が入っているものが多く、畑を意識しながら味わうというという新たな楽しみを発見できました。

この時期は、ちょうどワイナリーの収穫時期と重なっており、そんな時期に家族経営のワイナリーを訪問するのは、ちょっと非常識かなと懸念していましたが、どのワイナリーも暖かく迎えていただきました。特にプライベート訪問となったルチアーノ・サンドローネ、マウロ・ヴェリエ、ソクレは、業界人でもない日本からの1訪問者に対して、非常に丁寧に説明いただき、惜しげもなく貴重なワインを試飲させていただいたことに驚くとともに深く感謝しています。

最後に今回のワイナリ訪問を計画段階からサポートしていただき、当日のアテンドでも的確に通訳をしていただき、さらにその後の相談にも快く対応していただいたイタリアソムリエの資格を持つ佐藤百香合さんに深く感謝いたします。
結果的に、バローロ・ボーイズの代表的生産者、壮観な大樽が見られる伝統と歴史のあるバローロの生産者、試飲でバローロの多様なクリュの飲み比べができた生産者、小規模な家族経営ながら素晴らしいワインを生産しているバルバレスコの生産者といった素晴らしいバリエーションのワイナリー訪問をプランニングしていただきました。

→イタリア旅行2023年~バローロ・バルバレスコ(前編)

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