海外、特にヨーロッパのスーパーマーケットで買い物をすると、ナチュラルチーズが、日本での価格と比較して驚異的に安い価格で並んでいることに気づきます。2017年の日欧間のEPA協定により、今後、関税の削減は期待できますが、この価格差を埋めるには、相当な時間がかかりそうです。ヨーロッパと日本のワインの価格差について考えみたいと思います。
フランスやイタリアには、カット販売してくれるようなチーズ専門店が日本より遥かに多く存在しますが、一般のスーパでも驚くほどチーズが充実しています。さらに大きなスーパーだとカット売りのチーズ販売とパッケージ入りのチーズ販売が併存しているのが普通のようです。
そもそも1人当たりのチーズの消費量は、フランスやイタリアといったヨーロッパ諸国では、日本の10倍以上になるので、これは当然とも言えます。
昨年、車でシャンパニュー&ブルゴーニュ地方を旅行した際に、地元のスーパーでいくつかのチーズを購入しました。
その時の現地価格と日本での販売価格を比較してみたいと思います。
フランス(Casino、InterMarche)での購入価格です。
・サント・モール・ド・トゥーレーヌ(250g) 7.85€(918円)
・フルム・ダンベール(100g) 1.59€(186円)
・コンテ18ヶ月(100g) 2.09€(244円)
・エポワス・プティ・ベルト―(60g) 3.1€(362円)
・クレムー・ドゥ・ブルゴーニュ・フーリ・オ・ブルー・ドー・ヴェルニュ 3.64€(426円)
※いずれも20%のVAT(消費税)込みの価格です。
日本の高級スーパーでの平均小売価格とは、現地との価格比は、大体こんな感じです。
・サント・モール・ド・トゥーレーヌ(250g) 約3000円 / 約3.3倍
・フルム・ダンベール(100gあたり) 約630円 / 約3.4倍
・コンテ18ヶ月(100g) 約1000円 / 約4.1倍
・エポワス・プティ・ベルト―(60g) 約1100円 / 約3.0倍
Crémeux de Bourgogne は、日本では、トリュフ入りのものは、見たことがありますが、ブルーチーズ(ブルー・ドー・ヴェルニュ)入り/fourrés au Bleu d'Auvergneは、見たことがありません。おそらく日本では未発売ではないかと思われます。クリーム入りの白カビソフトチーズ(トリプル?クリームチーズ)の中央水平にブルー・ドー・ヴェルニュが入っているチーズです。
少し違いますが、マスカルポーネ・ゴルゴンゾーラ(マスカルポーネとゴルゴンゾーラチーズが交互にサンドされているチーズ)に人気がある日本でも、そこそこ人気が出るチーズではないかと思います。
▼日本でもよく見かけるパスチュリゼ(殺菌乳)タイプの250gのカマンベールチーズ、ル・ルスティック(1.75€=205円)、プレジデント(2.45€=289円)も日本では1200円くらいで、フランスの4~5倍以上!の価格です。
▼こちらは、ランスのCarrefourで購入したチーズです。
・ロカマドール(シェーヴル)3個入り 2.84€(332円)
・シャウルス(300g) 3.29€(358円)
※VAT(消費税)込み
日本での価格は、
・ロカマドール(シェーヴル) 約600円×3=1,800円 / 約5.5倍
・シャウルス(300g) 約3,000円 / 約8.4倍!
▼最後にパリのシャルルドゴール空港の免税店で購入したチーズです。
・ボーフォール(200g) 11.4€(1,333円)
・プティ・ルブローション・ド・サヴォア 10.9€(1,275円)
日本での価格は、
・ボーフォール(200g) 約2,200円 / 1.7倍
・プティ・ルブローション・ド・サヴォア(230g) 約2,700円 / 約2.1倍
免税ながら、さすがに空港は割高ですが、それでも日本の半分程度の価格です。
決してフランスの物価は安いとは言えませんが、このような乳製品に関しては、驚くほど安く感じます。ちなみに、イタリアは更に安く感じます。
日本の輸入チーズにかかる税金は、29.8%ですが、2017年に締結されたEUとのEPA条約の締結により、段階的に引き下げられることが決まっています。但し、16年目に完全撤廃するというもので、チーズの種類によっては、対象外(すなわち関税維持)になります。具体的には、無条件に段階的に撤廃されるので、熟成ハード系チーズと乳脂肪率45%未満のクリームチーズのみで、ソフト系チーズについては、一定の数量枠内で、16年かけて関税を撤廃するという内容です。
ちなみに29.8%という関税は、チーズのみにかかる訳ではなく、チーズ価格+輸送量+保険料のトータル(所謂CIF価格)に掛かります。
協定発効から2年経ちますが、ヨーロッパのナチュラルチーズの価格が下がった実感は全くありません。
冷蔵空輸のコストは、それなりに掛かるかと思いますが、(空港を除くと)3~8倍という価格差は、あまり納得のいくものではありません。
チーズの関税とよく比較されるのがワインの関税です。
日欧間のワインの関税は、もともと1本100円程度でしたが、EPA締結により、2019年2月に撤廃されています。とはいえ、高価なワインでは、もともと商品の価格に対して、関税額は微々たるものだったので、殆ど影響を感じません。
フランスのワイン価格は、日本とそれ程大差はなく、1000円程度の低価格のデイリーワインは、さすがにフランスの方が圧倒的に安いですが、高級ワインについては、日本の方がむしろ安く購入できます。それ以前に、日本でプレミアムな価格で販売されているような高級ブルゴーニュワインは、現地の一般のワインショップでは、まず手に入りません。すなわち、日本で売り切れて買えないようなワインは、現地で探しても、決して手に入らないことが殆どです。
例外は、ドメーヌでの直接購入です。
例えば、ボーヌにあるジョセフ・ドルーアン内のショップでのワイン価格は、
・2017 Beaune 1erCru Clos des Mouches Rouge 74.2€(8,680円)
・2017 Chassagne Montrachet 1erCru Morgeot Marquis de Laguiche 74.2€(8,680円)
日本では、15,000円程度のようなので、半額程度で入手できます。
同じボーヌ市内のワインショップで購入すると、日本と変わらないか、日本より高い価格になってしまいます。ブルゴーニュの高級ワインは、だいたい同様です。
ボルドーも同じような状況で、ボルドー市内やサンテミリオンのワインショップでの高級ワインの価格は、日本と同様かそれ以上です。
そう考えると、ナチュラルチーズの価格差は、関税はあるにせよ、もう少し縮まらないかと思ってしまいます。当然ながら10倍近い需要規模の問題が大きいとは思いますが、100gあたり1,000円を超えるような高級牛肉よりも高値では、マニア以外にはなかなか普及しないかと思います。
日本のチーズ消費量は、家飲みや内食志向を追い風に、大きく伸びています(2018年は前年比4.1%増)が、料理用のシュレッドチーズやカマンベールやチェダー等比較的低価格なチーズが伸びを支えていると思われます。
いずれ、ワインがそうであったように、チーズに対する嗜好も多様化してくると思います。その際に、多くの高過ぎるナチュラルチーズの価格は、多様化のハードルになりかねません。
関税の引き下げは、時間もかかるうえに、効果は限定的です。需要の拡大とともに輸送コストの低減、ネット販売の普及等で、せめて、現地の価格の2倍程度になってくれることを期待したいと思います。
<了>